さあ行こう
男が急に木の板を投げ宙に現れた哲が捕まえるそして、そして間があった。とても奇妙に感じた一瞬の間だ。哲は跳ねて翔に並ぶとただ一人場にそぐわない、違う緊張を持って男を見始めた。視線を移すと男の口はとても嬉しく吊り上がっている。翔も思う所が浮かび、しかし男の居る場で聞くわけにもいかなく、聞くなら後にするべきと思われた。しかし、三人の恐らく共通の認識が出来上がっているとも思われて、翔の体はどうにも動けなくなってしまっている。
「つまらん確認は次にしよう」
男が言って後ろを振り向いた。雨の中を堂々と歩き出すのだ。翔は言葉が何故か出なかった、なんだか男に致命的な何かを知られてしまったようで、晴れない未来を一瞬、針を刺すように感じて、これは空想かもしれないが、なんだか不安になった。
男が遠くの暗い木々の間に沈むのを見届けると、哲に視線を移す、哲は手のひらを開けて文様の描かれた木の板を、翔に差し出した。なぜこの通行証を渡したのか? 疑問を覚えつつも哲から受け取り、いや、受け取ったが哲に返した。
「まさかと思うけど、瞬間移動できなかった?」
哲はうなずく。
「この通行証は魔法が掛かってるわけじゃなさそうだ、ってことは哲の瞬間移動には条件があるのかもしれない」
「条件って?」
「何も感じなかった? なんか無理、みたいな、気持ち悪いとかブルーになる感じとか」
「ああ、飛ぼうとしたら、不安? に近い感じのが有った」
「多分それだ。ステータスを開いて、疑問に思うんだ、なぜ瞬間移動出来なかったのか。もちろん感覚でな」
聞こえた。そう哲が言う。翔は驚きを感じた。このゲームのある種最初の難関、ステータスを開くをすぐこなし、スキルも言ってすぐ使え、詳細機能も使った。早い。
「なんて言ってた?」
「あなたは物を持って移動出来ないって、女の子の声だった」
「またきつい条件だな」
とは言え、この条件は成長するにしたがって変化していく。哲が聞いた自分の声は、その内違う事を言い出すだろう。そこの所を説明する。
「なあ、このベルトとか付けてて飛べるのに、こんな木の板持ったら飛べないのか?」
「持てる重量が決まってるとか?」
「って事はベルト消したら飛べるかもしれないな」
翔が何かを言う暇も無く、哲のベルトが弾け、電車の様に肌を走り背中の方に消え去っていく。裸になってしまった哲に翔は、とりあえず一発叩く、拳が頭に当たった。
「これで答えは分かったな。そのベルトが特殊なんだ。って言うかスキルだったんなら言えよ」
パッシブスキルのカウンターミストが発動しない哲はしゃがみこんで頭を抱えていた。
「思い出したんだよぉ」
哲が少し涙目になって翔を見上げる。罪悪感が湧き上がってきた。力を入れすぎただろうか?
「ごめん、強く叩きすぎたか? ちょっと手をどけてくれ、直すから」
哲の代わり手を置き、離す。
「すげえ、痛くなくなった。翔すげえ」
哲の賞賛に罪悪感が膨らんだ翔は、もう一度謝った後、詳しい話をうながした。
「あのおっさんと戦った後、思い出したんだ。昨日までやってたような感覚だよ、良く分からないけど」
スキルの追加が起こっていた様だ。レベルが上がったと言うべきか。
「そういう事は早めに言ってくれると助かる。あとベルト付けとけ、無いよりましだ」
哲の後ろからベルトが走り出る。どうやら背中から出てる様だ。
「これからどうする?」
正直な所、その言葉には悩む。時間さえ経てば助けが来ると思われるが、お互い家に誰か居るわけではない。運良く機器を解除は無い。運営に解決してもらうにしても、何日もこっちで過ごさなければならないだろう。拠点が欲しい所だ。
哲の持っている通行証が浮かぶ、テコテル、文様には知らないその名前が有った。あの町の名前だろうか? あそこなら。
翔は哲に伝えて歩き出した。あの変な門番たちにまた会わなければならないのがめんどうだが、こっちには通行証らしき物が有る。イベントを進めて町で宿を取れば良いのだ。入れなければまた逃げてしまおう。二人の歩く道、雨はもう上がっていた。