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テコテル街と変質者

 翔は三歩歩いて二歩下がった。とりあえず歩いたものの現在地が分からなかったのだ。

「どうしたんだ?」

 哲が、伸びた爪を振り回しながら振り返る。

「いや……現在地が分からなくて。ここってどこなんだ? つーか危ないから止めなさい」

 翔は少し不満そうな哲を黙らせると、記憶を掘り返しながら考えた。草原から見える景色からでは全く判別が付かない。街道を探して町に行くべきだ。そのために迷子防止用の魔法を置いて行こうと。

「よし、とりあえず街道を探そう。道に出れば町に着ける」

「分かった」

 哲が消えた。一瞬置いて少し離れた所に出現する。

「待てい! どこ行くの!? 方角分かんの?」

 哲が声を上げた。

「あれだ! 右!」

 翔は悲しい思いに襲われた。哲の前まで歩くと、小さく細い両肩に手を置いた。

「哲……北ってどっちだ?」

 哲はニコッと笑うと。

「多分あっち!」

 翔は哲が指差した方角を見ると、遠く離れた場所にうっすらと木々が見えた。森だ。空には灰色の小さな雲が徐々に動いている。

「明らか死亡フラグじゃねえか! そっち行ったら森で迷って雨に打たれているところを敵にやられるんですね分かります。しかも右って何だ、右って。せめて東って言え! しかも多分って、完璧分かってねえじゃねえか!」

 哲は困難な事に燃えるタイプで、RPGで難易度があると迷わずハードを選択する人間だった。翔はノーマル。イージーを選択すると、何故か負けた気がするのだ。

哲に思う存分突っ込んだ後、翔はさっさと魔法を使った。周りに都合の良い物が無いので、信号を発する魔法を一から作る。おにぎりを作る様に、角度をつけた手のひらを交互に重ね、吐息を吹き込む。青い光が漏れ出した手を開けると、尖り透き通った石が出現していた。中心から青く発光している。その石を地面に突き刺すと、翔と石の位置関係がすうっと理解出来る様になった。

「すげえ。翔、格好良い」

 翔は少し照れくさかったので、「これが魔法だ」と大仰に言っておいた。哲が置いた場所をいじる前に、さっさと移動する。

「そうだな……、森を迂回するルートを取ろうか。いくつか森の近くに有る町を知っているし、目印は有った方が良い。何か有ってもこの場所に戻ってこれるから、気を楽に行こう」

 目的が決まれば後は単純だった、歩くだけ。翔の周りで消えたり走ったり、はしゃぐ哲に微笑ましさを感じながら、風とゆれる草の音と、暖かな日差しを体に受けてゆっくりと進んだ。

森から離れた場所を歩いていて、それを見つけたのは哲が先だった。

二人から離れた場所に、動く何かが見えたのだ。翔は警戒したが、時間が経つと正体が分かった。馬車だ。馬車が有ると言う事は、そこは街道が通っている可能性が高い。それでなくとも、人が通ると言う意味が分からない二人では無い。

「キター!」

「良し! 最初の冒険はクリアだな」

何て事の無い冒険だったが、翔にとっては仲の良い友人とプレイしている事が、すでに高揚感をくすぐるのであり、はしゃいでいる哲の様子が、自身が失ってしまったゲームの楽しさを甦らせた。ふっと、眩しき思い出と今が重なる。ゲームを始めて買ってもらったあの頃と。

「翔、行くぞ。……どうした?」

 哲が翔の顔を覗き込んだが、翔は笑って「何でもねーよ」と言って歩き出した。町にはもうすぐ着く。そんな予感を翔は感じ取った。



「わいせつ物ちんれつ罪でタイーホする」

 衛兵の最初の台詞がそれだった。間違いなく二人に言ったのだ。翔は問い返すと同時に、新しいイベントフラグなのかと疑問に思った。こんなイベントはまだ存在していない。

「そんな短いスカートをはいて、肩を出してほとんど裸ではないか。べ、別にときめいたりなんてしてないからな!」

「なにやだキモい」

 無精ひげを生やした鎧姿のおっさんが、顔を赤くしながらそんな事を言うので、翔は本音をこぼしてしまった。後悔はまったく無い。翔に言わせればこうだ、お前がタイーホされろ、今時ツンデレかよ。哲は何が何だか分からない顔をしていた。

「これしか服は持ってないのですが」

 翔が服を摘むとなにを考えたのか、衛兵の鼻から何かがトロリとたれた。血である。

 衛兵は荒い息をつきはじめ、槍を構えた。

「大人しくしろ……。大丈夫、詰め所でちょっと検査をするだけだ」

 衛兵の目が血走っている。翔が、どうすれば良いのか必死に考えている時、哲が前に出た。翔がどうした? と声をかけると。

「なるほどな……、分かった」

 哲の片手が外套にかかり、引かれた。

音をたてて宙を舞う外套。風に弄ばれたそれは、無数のこうもりに分かれて消え去る。

残ったのは、体の要所をベルトで覆った哲の姿だった。交差させた腕を開いて爪を伸ばす。

「待て、止めれ、事態を悪化させるな。しかも何が分かった」

 冷や汗をかいた翔が哲を止める。だが、この場は哲と、槍を構える衛兵を中心に回っていた。静かに沈黙する二人。

「おい、なんでだよ。なんのシーンなんだ、要らねえだろ」

 翔の言葉なんかでは、二人は止まらなかった。高まる緊張、衛兵の荒い息。

すると、二人の間に鳥が舞い降りた。鳥は二人を交互に見る。

突如の一声。鳥が鳴いたのだ。深く腰を落とす哲、吼える衛兵。

「うおおおおおおおおばばばばばば」

 衛兵は、鼻血を噴出して、倒れた。

悲しい戦いだった。奇しくもその勝者として立っていられた哲の顔には、喜びは浮かばず、ただただ苦く歪むだけだった。

「翔、この人大丈夫?」

「おかしいだろ! なに二人の世界に入ってんの!? あの鳥はなんだったんだよ! しかもどこ言ったあいつ! なんのジャッジだったんだ!?」

 その時である。

「隊長!」

 二人が声の方を見ると、歳若い鎧姿があった。鎧姿は体を震わせると、息を吸い込んで。

「隊長がやられた! 曲者だ! だれか、応援を呼んでくれ!」

 翔は大事になったと理解した。

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