特に問題はない
「どうした? なぜこっちに来た?」
移動した弓持ちと槍持ちには、口の火を大きくさせる事が出来ない様だった。火花くらいは散っているのだが風を燃やして話を作るに至らない。多分、まだ続く天気のせいだろう。もしかすると、状況のせいか。では状況とは何か、明白だった。彼らの短い間隔で振り向く外れた視線が語っていた。双方の目が届く距離だからだ。本当に闇が覆い隠してくれているのか疑っているのだ。その疑いは正解で翔には見えているし聞こえてもいる。翔は体を打つ雨風に外套のフードを押さえて、さて哲はこれからどうするかな、と意識を移動させていると哲が突然。
「なるほど。俺が間違ってた」
とか言い出して、アーガンスターら四人が集まっている方にゆっくり歩いて行く。
「彼女らの事か?」
アーガンスターは話が始まらない二人を前に察した様だった。始めた二人は気に病む風に頷く。
「て、哲?」
翔は歩き出した白髪主に向かってつい声をかけてしまった、が、彼女は握りこぶしに親指だけ上げて見せ、そのまま何も言わず歩き続けた。
「彼女達なら隊長が言っていただろう。問題無いとな」
無いの部分を静かに、少し強調したアーガンスターが、黙り始め、ふとした感じで哲がやってきている事に気付いて、
「カートとケイシは俺と現場を見に行くぞ、ティダンは彼女らを連れて隊長の所へ」
いきなり話が変わったはずだが隊員達は慣れた様子で返事を返した。哲もその場に混じり始めたので止まって、
「犯人って誰なんだ?」
とか言ってしまったので翔はつい大声で笑ってしまう。隊員達の全身は変に強張って武器を握り閉めたが攻撃的な気配も出ず、むしろ困惑の言葉が当てはまる状態だった。隊員達から声を出したのは当然アーガンスターで、他より一つ違い、この場でも動じる事は無さそうだった。それどころか懐からまたお菓子を出して、手渡すとまた頭を撫でようとして哲に逃げられ悲しみに顔を歪めていたくらいだった。
「犯人って誰!?」
翔の後ろから顔を覗かせてアーガンスターに届くほどの声を上げたがそれは店員にコーヒーを頼む気軽さで、翔は牛乳を入れなければコーヒーは飲まなかった。そして低脂肪牛乳を嫌っていた。
「副長」
弓持ちの声に、この弓もちがカートなのかケーシなのかティダンなのか翔には分からなかったが弓を持っている者が声を緊張に濡らしてこぼすと、アーガンスターがその呟きに似た言葉を無視して哲が来た方向のどこかに向けて声を上げた。
「犯人とは一体?!」
どういうことだ? と聞きたいのだろうが翔の頭の中ではうごごごごとしか聞こえなかった。だが状況は翔の思いとは別に進行して行く。
「犯人居るんじゃないの!?」
哲がまた声を上げた。するとアーガンスターも声を返す。
「犯人ってなんの?!」
哲は難しい顔をしてから、
「事件の犯人!?」
と言い放った。アーガンスターは律儀な人間なのだろう、まだ付き合って、
「事件ってなんの?!」
そうして哲がやっと確信に触れた。
「人殺しとしわくちゃの化物の!」
しわくちゃの化物の言葉にアーガンスターから疑問の間が挟まれて、ややあって「しわくちゃの化物とは誰に聞いたんだ?!」とさっきまでとは違い力のこもった言葉に哲は声を上げた。
「鼻血出してた変な人!」 その話を聞いた時のアーガンスターは、しわくちゃの化物と聞いた時より前に戻った様だった。だが翔が思うには戻ったのではなく、これ以上は見せられないため戻したのだろうと、しわくちゃの化物と哲が言った瞬間に何か本当を出してしまったアーガンスターは今戻ったとしても逆に不信であるのだ。翔がそんなことを考えているとまだ分かってもらえないかもと思ったのだろう、哲がさらに声を上げた。
「翔が嫌っている人!」
翔は思わず肘で小突いた。だがなにも手ごたえは無かった。
「それはどうでも良いんだよ」
哲はにやりと笑って。
「やっぱり嫌ってんだ。どうした? 変な人だったけど」
「ああ言う奴は嫌いなの。こっちを利用する気満々だろ、って言うかしわくちゃ言ってたの宿屋の人だったろ」
「ああそうか」と言って声を上げようとする哲を止めて、「面白いからそのままにしといてよ」と翔が言うと、「あのお菓子の人を騙しちゃうじゃん、そういうの好きじゃないな」と哲が言ったので「ゲームなんだから頼むよ」と翔がさらに頼んだら困った顔をしながら「仕方ないなあ」と言って黙ってしまった。ただ、黙っていたのはアーガンスターも一緒で哲が黙った後ようやく口を開いたのだった。
「その鼻血を出していた変な人は他に何か言っていたか?!」
先ほどより少し気軽で良く通る声だった。哲は翔を見たが翔が軽く頷いたのでおばさんが言っていた事を話し始める。
「女の子を狙ってる奴が居るって! それと見たらきが戻らないんだって! きが戻らないってどういうことだ?!」
「事情を聞くことが出来ないってことだよ!」
アーガンスターが答えたら哲が小さく「あ、そういうことか」と呟いた。
アーガンスターはじっと哲が来た方を見つめていて、近くに控えている槍持ちの槍を持った手が震えて、空いた手で手首の少し心臓よりの方を抑えて、抑えても震えは止まる事が無かった。