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渦中への道中

 茶色い皮の外套を頭からかぶって、水溜りがそこらに散らばった通りを歩いている。腰には太った皮袋が有って、哲が欲しがった結果だった。その哲は横で何もかぶらず体を隠す外套のみで、無数に有る水溜りを踏んづけては戻り、二人からまた離れては踏んづけていた。哲の頭や長い髪の毛は雨に打たれているはずなのだが、よく見れば体全体が全く濡れておらず、思われるに、例の瞬間移動が多発しているのだろう。自発的に物に触れられるのが少し不思議になった。

 二人の前を歩くアーガンスターは前金を渡して、残りはこの件が終わったらと言って、哲の頑固さの前に譲らなかった。通行税はこの件が終わったら免除との事だ。異常である。

だがそんなつまらない事を考えては哲の楽しみを奪う危険が有り、石を綺麗に整えた歩道から白い地面に飛び出していく哲に、翔が危険だと思ったら従う事と繰り返し、哲は翔を見て頷いたが、話の気配が無くなると直ぐに目移りして、瞬間移動はしなかったがうろうろと、歩いているアーガンスターや翔から離れすぎない範囲で、木造の建物の、少し離れた翔から見れば哲の左奥、少し大きい玄関扉だろう場所の前に居る哲から見れば扉の少し右に、今は建物と同じ色で塞がれているが窓らしき物が付いていて、その周りが何故か黒くこびりついていた。窓の上が一番酷く、さらに上へ上がるごとに固そうな黒は薄れていた。翔にはそれが何か分からない。ただ、見えていたはずのアーガンスターが何も反応しないし、魔法とも関係が無さそうなのでこの町の風景なのだろうと考えが落ち着いた。

 翔の場所に戻って来た哲が次に目をつけたのは、白い地面を挟んだ向かいの歩道に、二階建ての、おばさんとは別の宿屋だろう建物と、明らかに新しく建てたと思われる整った建物の間に、小さく、空間が開いた、実が赤く映える集まった緑の植物が、空間からはみ出しそうに建った場所だった。哲と同じくらいの高さで、ほとんどが厚みが有るためどう見ても鈍い、ギザギザの葉っぱを広げ、雨を大きく受け、葉っぱに葉っぱをを足していった様に哲の高さを作っていた。その葉っぱ達の奥や、少し高い所や、手前に、つまむ位の赤い実の房が有って、それもまた絶えず雨を受けて、明るい滴を零し続けていた。哲は翔に背中を向けて、頭を後ろに下げていたので表情は分からなかった。だが不意に、見えないからこそ、からのせいか、この見たことも無いだろう植物を見て、いつもと違う場所に立つ哲の気持ちがどんな感じか、そんなつもりは無いのに、考えてしまったのか、考えると言うには浮かぶのがあまりにも早く、今、この時を表すには不正確に過ぎて、翔の心は不鮮明に過ぎた。もう次の瞬間には過去の自分が、感情が思い出て、その時の、昔の翔がああ言う植物を見た時は、大きさも有ったのか力強い存在感に圧倒され、少し恐怖した物だった。

 この感覚はもう消えうせた。翔の体験したはずの感情は全く見当たらなくなった。今起きた事が信じられない。思い出した昔の感覚は一瞬と言える時間でしか翔の中に戻って来なかったのだ。それは始めてこのゲームをする友人の後ろ姿が見せた、ありもしない幻でしか無くなったのだ。また次の瞬間で、

 翔は自分が何を感じていたかを忘れたし、思い出そうとしても、ほんの少し心がもやもやとするだけで、それも急速に落ち着いていった。

「哲、行くぞ」

 振り返った哲は楽しそうに輝いた顔をしていて、翔は薄く笑みこぼれた

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