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何かが居る

 翔はどの部屋にするか決めかねていたが、哲が強く二階の奥と主張したのでそこに決めた。

 手すりの無い木の階段を上がる。

「何か二人で泊まるのってひさびさだな」

 笑った哲が横に並び、上がりきって左に曲がる。

「そうだな。最後って何時だっけ?」

 考えてる哲の横顔から目を放して記憶を探ると、三年位前だったかと自信の無い、弱弱しい感触が浮かぶ。

「三年くらい前じゃないかなあ」

 哲も自信が無さそうだった。翔も「多分……」と慎重な声を出した。

「凄いなこの世界」

 好奇心に満ちた声に、してやったりの気持ちが強くなって、明るい気持ちが強くなった。

「だろ、だからずうっと前からあれほど誘ったんだよ」

 哲にはかなり前から熱心に誘っていて、何とか了承を得たものの、ずるずる先延ばしになりやっと入ったのが今回の事だったのだ。翔は目的の扉を開けながら強く残念な気持ちになった。

 中は明かりが無いため薄暗いがすごせないほどでは無かった。

「しばらく時間も有りそうだけどどうする?」

 翔と同じくベッドに座った哲に聞いてみたが、返って来たのは「ベッド、固い」と言う初心者にありがちな言葉で、次に出たのは「静かだな」であった。確かにそれもそうでそうなのだが翔の問いかけなんて無かったのが少し決まりが悪くて、しかし、そわそわして明らかに宿屋の部屋の中に興味が出ている哲には届かなかった訳で、もう一回言っても良いのだが恥ずかしい様な変な感覚のせいでためらわれて、そんな事で迷っているから哲が外に繋がる窓を勝手に開け始め、そうされると始めてのプレイなので気が済むまでやったら良い、それを見るのが先にプレイした者の楽しみだと言う気持ちにもなり、声をかけずに黙っていると哲が消えた。

 慌ててばたんと閉まった窓に近寄って開け、すぐに下を見たが姿は無かった。

「上に居るよ」

「いきなりびっくりさせるな」

 降りてこさせようかと思ったが、哲の能力なら危険も無いかと思い直して、窓の下に置いてあった木のつっかえ棒で閉まろうとする窓を支え、ベッドに戻って座りなおした。一息ついたら体を洗いたい気持ちになって、後でおばさんに水をもらおうと決めたら、引き締まっていた気が緩んで、静けさが強く身近に感じられた。同時に、翔についた長い耳が、向こう達から音を細く拾うのだ。その静動に挟まれた体と頭の少しの部分が、空っぽで無機になって、翔をベッドに座らせたまま、目の奥に光を通させないのだ。

 いつまでそうしていたか翔は分からないが、体の時間を再び動かしたのは、後ろに戻ってきていた哲が「おい」と声をかけたからだった。翔は無様に跳ね上がって、頭も動き始めたのか変な声を上げていた事に少し遅れて気がついた。そこに、この宿屋に封じ込められたと言わんばかりの地響きが場に混じり、時を追いかける様に強く大きくなっていく。二人の感覚には明らかで、この地響きは翔と哲を追いかけて来ているのだ。襲い掛かる勢いで部屋の外までたどり着くと、扉の下から光をこぼし、直ぐに殴られた様に開いた扉は、壁にぶつかってうめき声を上げた。

「こんな暗い所で……さっきの叫び声はなんだったんだい?」

 廊下から二人を見るのはやはりおばさんで、厳しい顔で開けた窓を見た後、翔たちに顔を向けた。翔が正直に出来事を話したが、おばさんは翔の話を聞いた上で、翔が気になっていた、通りに人が少ない理由を話してくれた。

「しばらく前から、女の子を狙う何かがこの町に居るみたいなんだ。何人も出会った子が居るんだってさ。その何かを見てしまうと気が戻らないって聞くよ。だから男も女も、警備隊以外は、日が落ちてきたら家に居るようにきつく言われてるよ」

 おばさんは、ここからは噂なんだけどさ、と前置きして。

「そいつはしわくちゃの顔をした恐ろしい獣だって話さ」

 だから、あんたたちも出来るだけここから出ない方が良いよ。そう言っておばさんは、二人に夕食が出来た事を告げた。

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