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隠しコンテンツ

 エノト・オンライン。

サービス開始時をベルド暦100年とし、一ヶ月ごとに一年が過ぎる、リアルタイムVRMMORPGである。

キャラクターは歳をとり、フィールドはその姿を変えていき、一度起きたイベントは、そのキャラクターが寿命で死ぬと二度と起きない。その代わり、別のキャラクターが違うイベントで同じ報酬を渡したり、子孫が同じイベントを担当したりと、一期一会をテーマにしており、ストーリー上重要だったキャラクター達の、その後に感動するプレイヤーも数多く居た。

 そんな、仮想的な命の移り変わりの中。一人の中堅プレイヤーが、友人をこのゲームに引っ張り込んだ所で物語りは始まる。



「おい翔、何か当たったみたいなんだが……」

 多くの星が輝く宇宙に翔は居た。設定では、プレイヤーは宇宙で生まれ、ここから星、エノトへと降り立つ事になる。単純に言えばただのキャラクター選択画面である。

 翔は体感型ゲームであるVRどころか、絶滅しかけのMMORPGすらやった事のない友人、哲に、ゲームを始めるための登録を教えていた。すると哲が言い出したのだ。

「何が当たった?」

「読むぞ? あなたは隠しコンテンツ、真理に潜む者への参加権を得ました。よろしければご参加下さい……だと」

ゲームの公式サイトでの告知では、当てはまる様なイベントは無い。運営会社のドッキリイベントだろうか? セキュリティは、ゲームと言うには度が過ぎているほど強固で、毎月何人ものクラッカーが警察に捕まっている。そんなニュースを翔は知って居たものだから、イベント好きな運営像とあいまって、哲に「多分、運営のイベントだからやってみたら?」と軽い返事を返した。

「プレイヤー登録IDを追加すると、その人も出来るっぽいぞ。どうする?」

 翔は哲の言葉に興味をひかれた。クリアすればネット仲間に自慢出来る、そんな気持ちも徐々に強まり、哲にIDを登録してもらうと、眼下にある惑星エノトを見つめていた。



自身の呼吸で目が覚めた。

目の前は、青いと言うより明るい水色で。悪夢でも見たかの様に汗をかいていた。

上体を起こすと短めの草原が広がっている。

翔は何がなんだか分からず、のろのろと立ち上がろうとすると、視界に盛り上がった服が見えた。ぼうっとする頭でそれに触る。

胸に強い刺激が走った。

「え?」

 立ち上がって体を見下ろす、まずストッキングに包まれた長い足が見えた。次にフリルの付いたミニスカート、肩から露出したブラウス。翔は理解した。女になっている。しかし、VRをするために必要なヘルメットで性別変更は出来ない。脳のデータをネット回線を通じて処理会社に送っているので、VRシステム上、既存の機器では不可能だった。もちろん、翔が使っているのは既存の機器だ。哲とプレイしようとした時に被ったのも。

はっとした。哲はどうなったのだと。

「おーい、大丈夫か?」

 高く、澄んだ声。

翔が振り返ると、白くて目が赤い小さな少女が居た。背が翔の胸くらいまでしかない、

「すみません、どなたでしょう?」

 言って、ついじろじろと見てしまう。外套から覗く少女の格好は、黒光りするベルトを鎖で繋げ、体の要所に貼り付けただけのものだった。翔はつい呟く。

「とても……HENTAIです……」

「ん?」

「いや、なんでもない」

「おい、体調が悪いなら今日は落ちるか?」

「えっ?」

「ん?」

「えっ?

「え?」

「お前まさか……、哲か?」

「何言ってんだ? そうに決まってるじゃねえか」

「ちょっと待ってくれ、時間をくれ、十秒くれ、カウントしろ」

「何か分からんが、分かった」

 いーち、にー、さーん。翔の目の前で小さい女の子が首輪と鎖でベルトプラスガーターで、八重歯を除かせながら数を数えている。ありのままに考えてみたが訳が分からなかった。

「数えたぞ。もう良いか?」

「追加で六人前頼む」

「仕方ねえな、一分だけだぞ」

 翔は分かった。このノリをスルーする、こいつは哲だと。

「全て分かった。お前は哲だ」

「だからそう言ってるんだが」

 翔としては、哲の変身ぶりに戸惑いを通り越して頭が爆裂したのだが、この場ではそれが功をそうした。

「お前……恥ずかしくないの?」

 少女が哲と分かり、一番に気になったのはそれだった。翔だったら一生引きこもる。

「んー、ゲームだろ? むしろ恥ずかしいのは製作者とかじゃないのか?」

「そ、そうか」

 翔は敗北を知った。

「それよりも、早く冒険しようぜ! せっかくVRなんだし、戦闘とかやりたいぜ」

 翔を放ってうろうろする哲を止め、まずどんなキャラクタークリエイトをしたか、それの確認を提案した。選択した種族、職業によってしなければならない事、した方が良い事、戦闘スタイルなど、あらゆる事が変わるのだ。

「それで、種族名と職業は?」

「さあ?」

「どう言う事なの……?」

「俺、決めてないぞ。何にも」

「そんな訳有るか!」

「本当だって。隠しコンテンツ? あれの設定して気が付いたらここに居たよ」

 翔は隠しコンテンツの事にやっと気が付いた。性別が代わり、それに驚いていてすっかり忘れていたのだ。

「マジでどう言う事なの……?」

 不可解だった。設定も何も無くキャラクターが決められるなど、聞いた事が無い。仮に隠しコンテンツでの特別ルールだとしても、強制ゲームスタート、そんな事が有るとは思えなかった。コンテンツスタートの表示すら覚えが無い。翔の不安は増大していった。

「……、とりあえずメニューを開いて確認してみて。メニューって声を出すか、ちょっと強く思えば出てくるから」

「分かった。メニュー!」

「呟くだけで良いからね!」

「出たぞ。やべえ、面白いな。頭の中で項目が並んでるよ。すげえ」

「分かった、オーケー、落ち着け。その中のステータスって項目があるから、メニューを呼び出した方法で選んで」

「ステータス!」

「だから呟けって!」

「ええと、種族がヴァンパイアロード」

 ヴァンパイアは、吸血して体力を回復したり能力を増大させたり出来るが、夜以外だと能力が著しく制限される、特殊系の種族だった。だが、ヴァンパイアロードなる種族は翔は知らなかった。

「ヴァンパイアロード? 今度のアップデートで使うやつの先行配信とかそんなのか? それで? 職業は?」

「職業は、オールフリーだって」

「意味が分からん! そんな職業初めて聞いたわ!」

 エノト・オンラインに職業は数あれど、オールフリーなどと言う職業は全く聞いた事がなかった。

「むしろ職業なのか?」

「さあ?」

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