(4) 学校
「お待たせ……あれ?」
玄関の扉を開けると、白い紙袋が地面に置いてあるだけで、誰も居なかった。
いのり、さん……?
カイと話しているとインターホンが鳴ったので出てみると、隣の家の人で、一つ年上の朝野いのりさんだった。
本当に久し振りだったので、最初はとても戸惑った。
避けているつもりはなかったけど、一つ年上だったせいもあってか、ここ暫くは疎遠になっていたんだ。勿論、意図した事じゃないよ。
『ちょ、ちょっと待って』
それから、焦っていたけど、平常心を装って出ようと思ったところに……。
『何、何? お客さん? オレにも見せろよ~!』
姿が見えるようになっているインターホンだったので、カイが近付いてきて無理矢理覗き込もうとする。
『ちょ、おい、カイ!』
そして思わず、カイの名前を呼んでしまった。
『カイ……?』
いのりさんは、訝しげに……明らかに驚いたような声を上げた。当たり前だ。僕は、一人暮らしなんだから。
だから、とっさに嘘を付いた。
カイは猫、だと。
で、玄関に出てみると誰も居なかった訳だ。
もしかすると、嘘ってバレたかもしれない。
【死ゅ語霊】のカイが他の人に見えるかどうかわからないけど、取り敢えず、カモフラージュの為に猫を飼うべきかも。
ずっといのりさんと会ってなかったし、これから会うかどうか未知数だけどね……。
その後、学校へ行く準備をしてから朝野家を訪ねた。誰も出なかったから、急いで学校へ向かう。突然居なくなったし、もしかすると、拐われたなんて事もあるかもしれない!
自転車を必死に漕ぎ、電車に乗り、駅から学校までの徒歩五分の距離を駆け足で急ぐ。
いのりさんの教室の前まで行くと、丁度いのりさんが教室の中に入っていくのが見えたので安堵する。
良かった……誘拐とかじゃなくて……。
僕は大きく深呼吸をした後、南側にある自分の教室の棟へと向かう。
ちなみに、今居るいのりさん(二年生)の教室が西側。三年生の教室は北側。東側にその他の教室、と四方向に分かれている。
西側の校舎と南側の校舎を繋ぐ渡り廊下を歩いていると、急に後ろから声が聞こえた。
「女の子を待たせるなんてダメダメダヨ。夜宵君」
え。
振り向くと、【死ゅ語霊】の少女・カイが嬉しそうな笑顔を浮かべて立っていた……。