(3) 【死ゅ語霊】と再会
気まずいかもと考えていても、昔の事を考えていても、どうにもならないので、意を決して夜宵の家の前まで移動する。
緊張する……。
しかし、右側にある小さなインターホンを鳴らさなければ、夜宵は出てこない。
いっそ、夜宵が一人暮らしじゃなければ良かったのに。一人暮らしじゃなければ、夜宵が出る確率も低かったのに……。
インターホンを押せば、百パーセント、夜宵が出て来てしまう。
ううっ。
会いたいのか、会いたくないのか……自分でもわからなくなって来た……。
「悩んでいてもしょうがない!」
恐る恐る、インターホンを一度鳴らす。
待っている時間が恐ろしいくらい長く感じる。多分、数秒の事なんだろうけど……。
ドキ、ドキ。
心臓の音が煩い。
早く、早く出て……!
『は、はい? ど、どちら様、ですか……?』
久し振りに聞く、夜宵の声だった。少し声が低かったので、別人かと一瞬思ったぐらいだ。
何か焦っているような雰囲気だったけど、今の時間を考えれば、寝坊して慌てて準備をしているだろうと推測する。
「あ、あの、朝野ですけど……! 母に、お土産を渡すように頼まれて……!」
自分でも、声が震えているのがわかった。
早口だったし、聞き取れたかな……。もう少し、普通に話せば良かったと今更後悔しても仕方がないけど……。
『え、いのり……さん……。……ちょ、ちょっと、待って……。え……ちょ、おい、カイ……!』
え?
「カイ……?」
何で、夜宵が……。
『え? あ、猫、拾って……! ちょっと待ってて。すぐ片付けて出るから』
ガチャ。
インターホンの受話器を置く音が聞こえ、静寂が漂う。
私は、さっきとは違う意味でドキドキしていた。ふわふわした気持ちではなく、嫌な予感がぐるぐると渦巻いていく。
…………。
偶然だ。
カイなんて名前、珍しい名前でも何でもないし……。
夜宵は猫だと言っていたし。
私の親友とは、全然関係なんて――。
「いのりんじゃん。久し振り~」
声が聞こえて後ろを振り返ると、長い黒髪を三つ編みにしている少女が立っていた。
私が知っている少女よりも、成長した姿をしていて……とても大人っぽく見えた。
死んでしまった私の親友にあまりにも似ていて……驚いてしまい、声も出ない。
「おお、いのりんも大人っぽくなってるな~。まあ、オレもそこそこ成長したと思わね?」
本当に、カイ……?
で、でも、カイは死んでしまったはず……。
目の前に居る、なんて……あり得ない。あってはいけない事だ。
「オレさ、【死ゅ語霊】になって戻って来ちゃったんだよね」
嘘だ。
何の冗談なんだろう……。
「でさ」
「…………」
「夜宵、死ぬ運命なんだよね。まあ、オレが夜宵の魂を持っていくようなもんなんだけどさ」
カイと名乗る少女は、もっとあり得ない事を言った。
夜宵が死ぬ運命?
何を言っているの……?
「んで、ただやるだけじゃ面白くないし。いのりん、夜宵を助ける為にオレとゲームやらね?」
私はカイの言っている事が一つも理解出来ず、ただ立ち尽くすしかなかった……。