(2) 用事
「行ってきます」
私は準備を整えて玄関に向かい、扉を開けて外へ出る。
この分だと、急がなくても学校には十分に間に合いそうだ。母に感謝(母に起こして貰ってけど、起こす時に蹴られた……)しなければ。
私の家は白いマンションで、七階建てだ。一つの階に四部屋並んでいるから、二十八部屋あるという事になる。
私は三階に家があり、いつもは急いで降りている階段も、今日はエレベーターでゆっくり降りれる。
「さて、と……」
右手に持っている紙袋を持ち上げ、私は隣の301号室の家を見つめる。
時間があるからとは言え、母も今更こんな事を頼まなくても……。
『いのり、お隣さんに旅行のお土産渡してくれない? 母さん、ちょっと用事があるから、いのりが渡してくれると助かるわ。え? いつも通り母さんが渡しに行けば良い? 今日じゃなくても? 駄目なのよ、あまりもたないものだから。今回だけたから。起こしてあげたでしょう? 良いじゃない。
――夜宵くんとは仲良しなんだから』
仲良しなんかじゃない。
と言いたかったけど、反論してるとまた何か言い返されて遅刻するかもしれないので、何も言わずに出て来た訳だ。
涼風夜宵。
私の一つ下の高校一年生で、幼馴染み。
同じ高校だけど、接点もないし、最近喋った記憶もない。
昔は……小学生の時までは、ふざけ合う仲で気の合う幼馴染みだった。
でも、私が中学生、夜宵が小学生と別々になってしまってから……段々、と……疎遠になってしまった。
だから、あまり会いたくない。
と思う反面、会ってみたいとも思う。
だって、私は小学生の時から夜宵の事が……。