(1) 【死ゅ語霊】と私
三年前の春の事。
やっと寒さから解放され、桜の花も満開に咲き乱れている頃。
『朝野いのり、さん?』
中学の入学式が終わり、クラスで席に一人座っていた私。
他の人たちは隣の人とすぐ喋る様になって、たわいもない会話を繰り広げていたのに、引っ込み思案な私は誰とも話せずにいた。
話したくない訳ではなかったけど、何を話せば良いのかわからなかった。
挨拶はするとしよう。
なら、その後は? 今まで接点がなかった人たちに、何の話をすれば盛り上がるんだろう。黙る事になるくらいなら……。
そんな理由から、誰とも話してなかった。
その私に声をかけて来たのが、カイだった。
『え……あ、はい。そう、です、けど……』
話しかけられるなんて思ってもみなかったので、かなり動揺し困惑していたと思う。声も、詰まってばかりだった。
しかし、カイはそんな事は気付いてないとでも言うかのように、普通に話を続ける。
『ふーん。珍しくね? いのり、なんてオレ初めて聞いたぜ』
喋り方があまりにも男っぽかったので、私はカイを上から下までマジマジと見詰めた。
サラリと整えられたセミロングの黒髪。トレードマークにも見てとれる、雪の結晶のヘアピン。スラッとした手足と、中学生には少し大き過ぎる胸。
そして、中学指定の紺セーラー服をスカートの丈を短くして着用している。
……女装、とかじゃないよね?
『疑ってる?』
『え! あ、いえ、あの……!』
私、何て失礼な事を考えたんだろう……!
もう一回、さっきの時間をやり直す事が出来たら。欲を言えば、小学生より前に戻れたら、どんなに幸せか。
私の性格も違うものになっていたかもしれないのに。
『オレ、って言うからさ、変に見られがちなんだ。でも、オレはずっとこの話し方で通して来たし、ポリシーみたいなのもあるから変えるつもりもねーもんね』
ちょっと格好良かったと思わね?
そう言うカイの表情は、とても堂々としていて、笑顔が私にとっては眩しいくらい綺麗なものだった。
※※※
「眠い……」
午前七時二十分。
学生の私は、そろそろ起きて準備を始めないと遅刻してしまう。高校まで電車通学をしているので、どうやっても一時間はかかる。
でも、朝が弱い私は未だにベッドから抜け出せないでいた。