(3) 運命
って! 普通に会話してどうするんだよ!
突きつけられたメモ帳を、僕はカイに突き返す。
「そういう冗談は良いから! 早く出て行けよ! って言うか、誰!」
「まあまあ。そんな事、気にする仲じゃないじゃん」
「はあ?」
「名前? さっき、カイって名乗ったけど」
「名前を聞いてる訳じゃないんですけど」
「そうなのか?」
楽しくて楽しくて堪らないという笑みを浮かべるカイ。
遊んでいるのか。からかわれているのか。
これは、何かの罰ゲームなのだろうか。そんな事をする友人は思い当たらないけど、遊んでいるとしか思えない。
何が何だかわからないけど……。
あまり歓迎すべき相手じゃない事は、確かみたいだ。
どうにか、納得して貰って(何を納得してないのかわからないし、ここに居る理由もわかんないけど)、帰って貰う方向に持っていくしかない。
「……【死ゅ語霊】とか、そんな単語、初めて見たけど」
「そりゃそーだろ。勝手に作っただけだし。それに……」
笑みを浮かべていたカイは急に黙り込み、そして僕の顔をじっと見つめる。僕が見られている事に気付いた時にはもう笑っておらず、無表情だった。
何の感情も読み取れない、恐怖感さえ湧き上がってきそうな……そんな表情。
そして、カイはこう告げた。
「――人殺すのに、名なんてどーでも良いし」
「何、それ……。あ、遊びなら、他でやりなよ……」
カイの表情にすっかり呑み込まれてしまったのか、僕の口から出た言葉は少し震えていた。
今頃になって不審者であるカイに恐怖を感じた。
……という事にしておいて欲しい。
「遊び? それ、本気で言ってんの? こんな事、遊びで言うか? 普通」
言わないと、思う。思いたい。
でも、だからって霊を信じろって言われても、答えはノー。
霊なんて、居る訳がないんだ。居るのは空想の世界だけ。ゲームや漫画、小説の世界だけ。
「……君にとっては今更な質問かもしれないけど、殺されるのって、僕……?」
「ここには、オレとお前しかいないんだぜ? それだけで悟れよ」
「それって、単純に言うと、死ぬ運命……ってやつ……?」
「さっきからそう言ってるだろ~。鈍い~」
また、急に表情も言葉のトーンも変わる。
さっきまで、いかにも暗い真面目な話をしてます的な雰囲気だったのに、駄々をこねている子どものような口調で、和やかな雰囲気になっている。
何なんだよ……。
コイツ、普通の女の子に見えるのに、気味が悪い。
はっきり言って、不気味過ぎる。
「二重人格……?」
とっさに思った事が口から出てしまった。
反射的に口を押さえるけど、今更やっても遅いだろう事に、口を押さえてから気付いた。
「まっさか! あれは営業用! こっちが本当のオレ!」
しかし、カイは気にした様子もなかった。
敢えてなのか、気付いていないのかはわからないけど、僕の行動を責める事もしないし……何も言ってこない。
頭が混乱して来て、何が何だかわからなくなってきた……。
「営業……。ビジネスマンみたいだね……」
こっちの流れに持って来て、早々に帰って貰おうと思っていたのに、何だかカイのペースに巻き込まれている気がする。
「だって、人を殺すビジネスをしてますカラ!」
嬉しそうに告げるカイに、思わず可愛いな……なんて思ってしまった僕。
ああ、もう駄目かも。色々と。
もう……人間でも、霊でも、どっちでも良いかな……。
そう頭の中で完結させた僕は、台所に入って冷蔵庫を開け、紙パックの牛乳を出す。
そして扉を閉めてからカゴに積んであるミルクパンを一つ取り、リビングに戻って、ソファーに座った。
「運命……か。仕方ないか、運命じゃ……」
ミルクパンを一口齧り、牛乳を飲む。
立って僕を見ていたカイも、僕の向かい側のソファーに座り、いつの間にか持っていた缶コーヒーの蓋を開けて飲んでいた。
「うん、仕方ない。だから、死んで☆」
「それも、嫌だ。僕だって、まだ生きていたいよ。人間だからね」
諦める、という手もあるけど。
そんな簡単に諦めてたまるか。
いくら見た目がどんなに可愛い女の子でも、死んで欲しいなんて言われて死ぬなんて……あり得ないし。
まだ状況が読み込めてなくてわからない事だらけだけど、逃げてたまるものか。
僕は死なない。
そして、コイツを追い出す方法を何とか考えなくちゃ。