(11) 【死ゅ語霊】と技
「三上さんって、夜宵の好きな人なんだぜ」
カイの一言がグサッと胸に突き刺さった。
それ程、衝撃の事だった。
夜宵に好きな人が出来るなんて、考えた事もなかったから。自分の事で、手一杯だったから……考えなかったんだ。
私が夜宵を好きなように、夜宵にも好きな人が出来る。
そんな事、当たり前の事なのに……。
離れていた時間が長かった私は、夜宵が好きになるなんて……確率的には低い事。
私が選ばれる事なんてなくて当然。
頭ではわかっていても、かなりのショックに何も考えられない。
夜宵に恋愛対象として意識して貰っている、とは考えなかったけれど、少しは好意的に思ってくれているかもとは思っていた。
私、私……。
「好きな相手が、自分の事を好きで居てくれる……なんて、夢みたいな事、そうそうある訳ねーだろ。それは、漫画や小説だけだぜ」
カイの言葉は、今は呪いの言葉に聞こえた。
一気にトドメを刺す事なく、じっくりと……じんわりと浸透していく。
カイはただ嫌がらせをする為だけに言っている訳じゃない。事を面白くする為に、言っているだけに過ぎない。
理解は出来ていても、心をコントロールする事は出来なかった。
「夜宵は、死ぬ運命を避ける為に……そして、好きな人と結ばれる為に、三上さんと両思いになろうとする。んで、いのりんは夜宵の運命を避ける為に、三上さんと夜宵がくっ付かないように邪魔をする――――なんて、複雑なんだ~」
と言いつつ、嬉しそうに呟くカイ。
複雑にしているのは、カイ。
一体、何を企んでいるの……? どうして、そんな複雑な事を……? カイが何をしたいのか、全くわからなくなって来たよ……。
「でも、黙ってないで敢えていのりんに教えてあげるオレって、優しくね? まあ、教えたところで何も変わんねーかもだけど」
「……夜宵が両思いになれて、私が邪魔出来なかった場合。それと、夜宵が両思いになれなくて、私が邪魔出来た場合はどうなるの……?」
「さぁなぁ。どうなるんだろうなぁ」
肝心なところは、いつもはぐらかす。
カイのお得意技だった。こうなってしまっては意地でも喋ろうとしない事は、私が一番良くわかってる。
カイは意地悪だ。
意地悪して、楽しんでいるんだ。
複雑にしているのも、面白くする為。
関わっている人が……カイのゲーム盤に巻き込まれている人たちがどんな気持ちで居るかなんて、考えないんだ……。
「まあ、いのりんは余計な事を考えずに夜宵と三上さんの邪魔すれば良いって事だ。夜宵に相談するなって最初に言ったもんな」
「…………」
「夜宵の好きな人を知れただけでも、ラッキーだと思うぜ。頑張れよ」