(10) 報告
「いのりん、随分楽しそうじゃん♪」
「…………」
今、一番会いたくない人物に出会ってしまった。
と言うか、何処かに行ったんじゃなかったの? 別れてから、そんなに時間(数分しか?)経ってないんだけど。
カイは親友だったけど、今は悪魔にしか見えない……。
「おっ、良い顔してんなぁ。そんなにオレと会いたかった?」
「……眼医者に行く事をお勧めするよ」
何処をどう見たら、良い顔に見えるんだか。どう見ても、嫌な顔をしている風にしか見えてないはず。
それにしても、何しに来たの……?
夜宵と居る訳じゃないのに、私の学園生活を邪魔しに来たとか? それとも、単純にからかいに来た?
「あれ? 涼風さん、朝野さんと知り合い?」
三上さんが不思議そうに尋ねてくる。
表情が笑顔だったから、単純に興味から聞いているんだと思う。訝しげに思われなくて助かったよ……。
「はい。そうなんですよ」
ゾクッ。
急激な寒気が私の身体を襲った。
今の、何……。
何が起こったの……?
最初、どうして寒気がしたのか、わからなかった。だって、今まで寒気がした事なんてあんまりなかったから。
「私と朝野さん、昔からの親友なんです」
私?
朝野さん……?
横目でカイを盗み見ると、もの凄く嬉しそうな……意地悪そうな笑みを浮かべている。でも、それは一瞬の事で、次に見た時は人付き合い良さそうな仮面の笑顔になっていた。
なるほど、三上さんの前だけは敬語を使っているんだ。
敬語を使っている……だから、寒気がした……と。
だって、カイが敬語を使うなんて、見た事なかったもん。
先生の前でも、先輩の前でも……誰だろうと、敬語なんか使わなかったし、謙った場面に遭遇した事もない。
でも、どうして三上さんには敬語を使っているの?
「という事は、朝野さんと同級生なの?」
「そうですよ。夜宵君とは一つ違いなんです」
夜宵、君……。
夜宵の事も、君付けなんだ……。
「……年齢詐称はしてないんだ」
私はカイに小声で告げる。それにつられてなのか、カイも小声で話す。
「当たり前じゃん。それに、ずっと夜宵の事を見張ってるつもりもないしな」
「あ、そう」
「そんな冷たい態度で良いのか? せっかく、教えに来てやったのに」
「は?」
「……三上さん、夜宵の好きな人なんだぜ」