(1) 日常
人は、何人かに……何万人かに一人は、不思議な能力を持つものがいる――。
とどこかの本で読んだ事があった。
それは人様々で、超能力というものであったり、霊が見えたりと、普通の人から『何言ってんだ、お前?』とでも言われそうなものばかりである。
当たり前と言えば、当たり前なのかもしれない。普通の人から見れば、気味の悪い事なのだから。
でも僕は、ふと、こんな疑問を持つ。
……なら、【普通】というのは何なのか、と。
誰が【普通】で、誰が【変】なのか。
もしかすると、普通と思っている人が、普通じゃないのかもしれないとは思わないのだろうか、と。
まあ、どうでも良いことなのだけど。
こんな事を思っている僕も、自分がその立場だったら? と聞かれると多分困るだろう。
何故かって?
僕も普通と思っているから。
何事もなく平凡に過ごし、十六年間が当たり前に過ぎているから。
でも、そんな思いが崩れ去る日が訪れる。
それは、カラッと晴れた朝の事だったと思う――。
※※※
《朝だよ。ピーちゃんだピヨ☆》
インターネットのオークションを通じて、超格安で売って貰った、お気に入りのヒヨコ型時計の音が部屋全体に響き渡る。
その音は、僕の頭の中にも当然響く。
最初は、かすかに聞こえる程度だったので気にも留めなかったが、次第に大きくなって、ガンガンと頭痛がしてきたので、大きく手を上げて力いっぱい時計を叩いて、止めた。
うっすらと目を開ける。白い天井がぼんやりと見える。
辺りまだ暗そうだったので、もう一度目をつむる。昨日何時にセットしたっけ? と頭の中に疑問が浮かんで来たと同時に、僕は渋々ゆっくりと起き上がる。
まだ目がうつろ、頭の中は真っ白状態だったので、何も考える気にもなれず、そのまま暫くぼっーとする事に決めたのだった。
「……よし」
十分後。
頭の中が少し活動を始めたので、布団を脱ぎ捨てて、ベッドから下りた。
大きな欠伸を一つし、目の中にいっぱいの涙が溜まったまま、チェックのパジャマから制服へと着替え始める。
ここで、自己紹介の一つでもしておこうと思う。
僕の名前は、涼風夜宵。
性別は男で、十六歳。高校一年生。
一応受験はしたけど、定員割れのところを狙ったので、平凡な僕の成績でも入る事が出来た。
だからという訳ではないけど、結構のんびりした学校(名前は、虹ヶ丘商業高等学校、略して虹商)なんで、僕にぴったりのいい雰囲気で助かっている。
最後の最後……願書出す前日まで悩んでいただけの事はある。
勉強・運動ともそこそこ平凡。
だけど、絵を描くことはヘタクソ。歌を歌えばオンチと言われ、機械を触れば必ずと言っていいほど壊れ、ミシンを使えば糸が絡まる。
小学校の時は、クラッシャーと呼ばれていたのが、懐かしく感じる。
……という具合に、ほとんどダメ人間だけど、料理だけは得意だったりする。
と自慢してみる。
後、僕には家族はいない。
小さい頃に亡くなったらしい。
僕は全く覚えていないんだけど。
写真を見せて貰った事はあるが、イマイチ、ピン と来なかった。
まあそんなこんなで、父さんと母さんの高校時代の友人夫婦に引きとられたが、今は一人暮らしをしている。
理由は、ただ単に一人暮らしがしてみたかっただけ。
一人の方が気楽だし、マンション代・光熱費・食費・その他もろもろの生活費とお小遣いは貰っているので、何の問題もないし。
バキッ。
何かを踏んだ感触と、割れる音がしたので下を見ると、僕の足の下にヒヨコの時計があった。
多分、力いっぱい時計の音を止めた時に、反動で床に落ちたのであろう。恐る恐る足を上げると、時計にヒビが入っており、目玉が飛び出していた。
「あっ……」
しゃがみ込んで時計を拾い、ため息と同時に肩をすくめた。
心の中では、涙の嵐が起こった。
それ程ショックという事なのだけど、本日で三十個目(壊した数)に到達してしまったので、ショックを通り越し、自分に呆れてしまった。
ダメな人間だな、と。