(7) 【死ゅ語霊】と葵
三上さんを好きになったのは、入学式での事。
理由は大したものじゃない。
小説や漫画によくある、一目惚れだった。
僕がたまたま、三上さんの落とし物を拾っただけ。そして、その後同じクラスだとわかって仲良くなったという……流れに身を任せた出会いだ。
それでも、僕は幸せものだと思う。
出会いを与えてくれた神様に感謝もしている。
……まあ、【死ゅ語霊】のカイとの出会いは勘弁して欲しかったけど……。
「涼風君がギリギリに学校に来るなんて、珍しいね。私なんか、いっつも遅刻寸前だから、そういう事言える立場じゃないんだけどさ」
「ちょ、ちょっと寝坊と言うか……何と言うか……」
思いっきり緊張しているのが自分でもわかる。
どうして、もっと普通に話せないのか……って、いつも後悔する。
今日も、そう。
今回が話すのが初めてって訳じゃないのにな……。
それに、朝に起きた本当の出来事を言えないのも心苦しいと言うか……普通に話せてない原因でもあると言うか……。
「んー、そっか。まあ、たまには生き抜きしないとだよね」
「え、あ、うん……」
「涼風君は真面目だもん。ちょっととか、たまには~……何てのは難しいかな?」
「そ、そんな事……!」
「ははっ。じゃあ、今度私とおサボリしちゃう?」
三上さんは悪戯っぽい笑みを浮かべる。
意地悪い笑みのカイとは違って、見ているだけで和む。
まさに、天使。
……って、ちょっと大袈裟に言い過ぎかな。
「ふ~ん。それが、お前の好きな子……ってヤツな訳だ」
「うえ!」
驚きで、思わず裏返った変な声が出てしまった。
だって、さっきまで横には誰も居なかったのに、急に僕の隣に人が現れたら、多分誰だとしても驚くと思う。
それが、あのカイって言うなら尚更だった。
「夜宵君、そんな声を出すなんて……随分歓迎されてるみたいだな。オレって」
『うえ』って、どういう意味だ?
と心の声が聞こえてくるくらい、爽やかな笑顔と声でカイは答える。
よく見ると、さっきとは違って、僕の通う学校の女子の制服を身に付けている。自然に着こなしている為、違和感は何処にもない。
何しに、来たんだ……。
悪寒がし、僕はじっと何も答えずに貝になったように固まっていた。
すると……。
「およ? どちらさんかな?」
三上さんがカイに声をかけた。
しかも、興味津々の眼差しを向けて。
……カイは一体、僕の好きな人に接触して、どういうつもりなんだ……?
これが、【死ゅ語霊】のカイと三上葵さんの最初の出会いとなった。
嵐が、巻き起こる予感が………………………………………………………………した。