(6) 過去
『夜宵くん……ごめんね』
長い髪を二つに縛っている少女は、今にも泣き出してしまいそうな表情を浮かべている。
どうして、そんな表情をしているの?
どうして、泣きそうなの?
わからない。
でも……。
知らない……見た事がない女の子なのに、懐かしいような感じがするのは何故だろう。
僕は、何かを忘れているのかな……?
※※※
「おはよう、涼風君」
「え……」
肩を軽く叩かれて、始めて自分がぼっーとしていた事に気づく。
ふと目線を右斜めに向けてみると、僕のクラスであるC組の文字が立て札が見えた。
いつの間にか、自分の教室に来ていたなんて……。
そう言えば……カイが居ない。
と言うか、何処で会話が終わったのか……はっきりと思い出せない……。
「え、あ……み、み、三上、さん……!」
「はぁい♪ 寝ぼけてたのかな? おはよー」
「お……おはよう……」
肩を叩いた人物は、同じクラスの三上さんだった。
三上葵さん。
いつも長い髪をポニーテールにしている、クラスの中心にいる……可愛い系の少女。
ノリと元気が良いのがトレードマークのようなもので、学校内では“太陽の女神”だなんて噂されている。
そして、僕の……好きな女の子でもあった――。