(5) 【死ゅ語霊】と賭け
「カ、カイ……!」
まさか学校にまで来ているとは思わなくて、思わず大声を上げてしまう。
しかし、あまり人の通らない渡り廊下に居たので、不審者扱いされる事もなく落ち着く事が出来た。
カイは僕が落ち着くまで何もして来なかったけど、意地悪そうなニヤニヤ顔で僕をずっと見ていた。
「な、何で、カイが、ここに……?」
「そりゃ、【死ゅ語霊】だからな」
「それ、答えになってないよ……」
「そうかぁ? 夜宵こそ、何やってたんだ~? ストーカーか~?」
「ち、違うよっ!」
僕はいのりさんが心配で……と言おうと思ったけど、途中でやめた。
カイはいのりさんを知らない。言ったところで、ふざけているカイには意味ないだろうし。
「……何で、学校に居るのさ」
僕は一番手っ取り早い方法である、話を逸らす方向へと転換する事にした。
この場に居る理由を説明したくないっていうのもあるけど、カイが学校に来ている理由も知りたかった。
「んー。まあ、暇潰し?」
「……嘘が上手いよね。堂々と言えるのが凄いと思うよ」
「それ程でも」
「褒めてないし!」
「……まあ、冗談はこのくらいにしておいて」
カイの場合は、全部が冗談だったんじゃないのか。
何か……カイとのやり取りが自然になって来ている事に、自分でも驚いていた。
カイは訳のわからない【死ゅ語霊】なのに。
……元々、からかわれているだけなんじゃないかって思えてくる。
だって、急に死ぬ運命だなんて……見た目がごく普通の少女に言われても、実感がないってのが正直な気持ちだし。
カイが何かしてくるんだったら別だろうけど、ただ付いて来ているだけにしか見えないしさ……。
「唐突だけど、夜宵って好きな女の子とか居んの?」
「はい?」
好きな女の子?
いきなり何を言い出すんだ、コイツは……。
「だからぁ、唐突だけど……って、言ったじゃん」
僕の驚いた表情で言いたい事を察したのか、カイが先に言葉を紡いだ。
「オレ、お前が死ぬ運命だって言ったよな?」
「へ?」
何か、話が飛び過ぎじゃないか……?
「……言ったけど。でも、僕ははっきり言って認めてないけどさ」
「まあ……そうだろうな。だからさ、オレと賭けをしようぜ~」
はい?
「オレはお前に死んで貰わなきゃ困る。でも、正直駄々をこねられるのは面倒って訳。そこで、妥協案を提案してるんだよ。わかる?」
妥協案って……さっさと諦める、という選択肢は存在しないのだろうか。
「……その賭けって、何?」
「そこで、さっきの話に戻る訳だ。どうやら好きな女の子は居るみたいだし」
まだ居るとは言ってないんだけど、そんなに表情に出ていたという事なのかな……。
「お前がその好きな女の子と付き合えたら、死ぬ運命というやつを回避出来るようにしてやるよ。……でも、出来なかった時は、言うまでもないよな?」
この賭けは、一方的過ぎないかと思うのは、僕だけなのかな……。