消えうせていた情熱
あんなに燃え上がっていた恋だったのに、幾月共に過ごしただけで冷めてしまった。
私は今、彼の部屋のベッドの中にいる。
彼は既に仕事へ出かけた。
私はフリーターとして、今はコンビニとある事務所の会計事務をバイトとしてしている。
月の収入は10万を超えて、13万弱あるから、自活しようとすれば、かなり切り詰める必要はあるが、どうにかなるだろう。
それよりも問題なのは、彼とどうやって別れるかだった。
だが、いつかは越えなければならない壁。
なら、今越えた方が、後々の苦労は減ると考えた。
夜、彼が帰ってくると、私は聞いた。
「…ねえ、私のことって、まだ好きなの?」
「どういうことだよ」
カバンを居間のテーブルの近くに置き、ネクタイをゆるめながら聞かれた。
「だって、あなたってば、ここ最近私に冷たいような気がするのよ。何か聞いたら仕事だとか言って、逃げるじゃない」
「…逃げてはいない、ただ、まだ踏ん切りがつかないんだ」
「3か月も一緒に住んできて、まだ結婚する気が無いって?」
私は、そこで思い切って聞いた。
「私たちって、合わないのかもね、残念だけど……」
「別れたいのか」
彼はさらっと言い放った。
「別れたいのであれば、俺は止めない。だが、これだけは言わせてくれ」
彼は私のすぐ前に立って、ほほを両手で包みながら、私に告げた。
「お前の為に、俺の横は開けておいてやる。俺にふさわしいと思うのは、お前だけだ。後にも先にも、お前だけが、俺が唯一愛した女性だ」
そう、この言葉だ。
私は、付き合うきっかけになった、彼からの告白を思い出していた。
同棲する前、大学で告白された時と、変わらない言葉。
それに、変わらないぬくもりが、私を包んでいた。
自然と涙が、こぼれおちる。
「…ずるい」
「ずるい?」
「ずるいよ、別れようとしていた人を、また引き寄せてしまうなんて…」
「…じゃあ、別れないのか?」
私は答えなかったが、その場にへたり込んだ。
彼もすぐに、私が言いたかった答えが分かったようで、何も言わなかった。
「じゃあ、俺からも言わせてくれ」
彼は私に小さな手のひらに収まるような箱を渡した。
「開けてみてくれ」
何か言う前に彼がそう言ったので、私はその箱の包みをゆっくりと開け、箱のふたを開けた。
指輪が、そこに座っていた。
「2カラットの本物のダイヤ、指輪は銀メッキなんだけどね」
その説明は、私にはほとんど聞こえなかった。
なにせ、指輪を見ただけで、なぜか、また涙が出てきてしまったからだ。
「…これって」
「ああ、君が思っている通りだ」
それから、彼は私の目線に合わせるようにして、座った。
「結婚してくれ」
答えは、言うまでも無かった。




