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走り出せ!エクストリーマー!  作者: 双鶴


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第8話 黒江、初めての挫折

 放課後の倉庫。

 昨日よりも工具が増え、ホワイトボードには白峰理久の走り書きが並んでいた。


「……で、これが“軽くて強くて安い素材”の候補?」

 黒江斎がホワイトボードを見て言った。


「候補っていうか、“まだマシなやつ”」

 俺――白峰理久はマーカーを置いた。


「アルミ合金の中でも、6000番台なら強度と加工性のバランスがいい。

 ただし、値段はそこそこする」


「そこそこって?」

「まあ……“高校生の財布では無理”ってレベル」


「無理じゃん」

 黒江は即答した。


「でも、鉄よりは軽いし、カーボンよりは安い。

 現実的に考えると、ここが落としどころだと思う」


「落としどころって言われても……」

 黒江はスマホを握りしめた。


「スポンサー2件目、今日こそ取るから」


「どこ行くの?」

 雨宮柊が聞く。


「金物屋。工具扱ってるし、話くらい聞いてくれるでしょ」


「黒江さん、昨日も言ってたけど……」

 雨宮は少し言いにくそうに続けた。

「“話を聞いてくれる”と“協力してくれる”は別ですよ」


「わかってるわよ。でも、動かないと始まらないでしょ」


 黒江はスマホをポケットに入れ、倉庫を出ていった。


 残された俺と雨宮は、しばらく無言だった。


「……黒江さん、ちょっと焦ってますよね」

 雨宮がぽつりと言った。


「焦るだろ。スポンサー1件じゃ足りないし、時間もないし」


「でも、焦ってるときほど失敗しやすいんですよね」


「雨宮、お前さ……言い方が妙に冷静なんだよ」


「え、そうですか?」


 雨宮は本気で気づいていない顔をしていた。


 俺はノートパソコンを開き直した。


「よし。アルミ合金の加工方法、調べてみるか」


「僕は南条工業の情報、もう少し探します」


 雨宮がスマホを操作し始めたそのとき――


「……あれ?」


「どうした?」

 俺が聞くと、雨宮は画面を見せてきた。


「南条工業、今日“公開練習”してるみたいです」


「公開練習?」

「はい。SNSに“見学自由”って書いてあります」


「なんでそんなことするんだよ」

「たぶん、宣伝じゃないですか? 強さをアピールするための」


 雨宮は少し考えてから言った。


「行ってみません?」


「え、今から?」

「はい。情報は多いほうがいいですし」


 確かにその通りだ。

 俺たちは倉庫を出て、南条工業へ向かった。


 学校から自転車で10分ほど。

 南条工業の敷地に入ると、すでに数人の見学者がいた。


「……なんか、雰囲気違うな」

 俺は思わず言った。


 校舎の前には、銀色のフレームが組まれたソーラーカーが置かれていた。

 無駄がなく、洗練されている。


「これ……高校生が作ったの?」

 俺は呆然とした。


「作ったんでしょうね」

 雨宮は淡々としている。


 そのとき、後ろから声がした。


「見学の方ですか?」


 振り向くと、小柄な女子が立っていた。

 髪は短く、目つきは鋭い。

 制服の胸元には“南条工業”のバッジ。


「えっと……はい」

 俺が答えると、彼女は軽く会釈した。


「三枝です。1年です」


 三枝――

 南条工業の“天才1年”。


「これ、あなたが作ったの?」

 雨宮が聞くと、三枝は首を振った。


「全部じゃないです。フレームの設計と、パネルの角度調整だけです」


「だけって……」

 俺は思わず言った。


「あなたたちも出るんですか?」

 三枝が聞いてきた。


「はい。でも、ソーラーカー専門じゃなくて普通の科学部です」

 雨宮が答える。


「科学部……?」

 三枝は少しだけ驚いた顔をした。


「普通科でソーラーカーって、珍しいですね」


「まあ、事情があって」

 俺は苦笑した。


「事情?」

「廃部の危機でして」


 三枝は一瞬だけ目を丸くしたが、すぐに真顔に戻った。


「……大変ですね。でも、出るなら本気で来てください」


「本気で行くよ」

 俺は即答した。


 三枝は少しだけ笑った。


「じゃあ、楽しみにしてます」


 そう言って、彼女はソーラーカーのほうへ戻っていった。


 俺と雨宮はしばらくその場に立ち尽くした。


「……レベル違いすぎない?」

 俺が言うと、雨宮は小さく頷いた。


「でも、やるしかないですよね」


「まあ、そうだけど……」


 そのとき、俺のスマホが震えた。


《黒江:終わった。帰る》


「……黒江さん、失敗したっぽい」


「ですよね……」

 雨宮は苦笑した。


 俺たちは急いで学校へ戻った。


 倉庫に戻ると、黒江が机に突っ伏していた。


「どうした?」

 俺が聞くと、黒江は顔を上げた。


「……金物屋のおじさんに“高校生を利用する気はない”って言われた」


「利用……?」

 雨宮が眉をひそめる。


「“宣伝してほしいだけだろ”って。

 “本気でやってるなら、まず自分たちで形にしろ”って」


 黒江は悔しそうに唇を噛んだ。


「……ごめん。私、ちょっと調子乗ってた」


「乗ってたな」

 俺は正直に言った。


「白峰くん、そこは慰めるとこじゃない?」

 雨宮が小声で言う。


「いや、事実だろ」


 黒江は苦笑した。


「でも……悔しいわね。

 “高校生だから”って理由で断られるの」


「高校生だからこそ、できることもあるだろ」

 俺は言った。


「例えば?」

「……まだわからん。でも、探すしかないだろ」


 黒江はしばらく黙っていたが、やがて顔を上げた。


「……次は絶対取る」


「その意気だよ」

 雨宮が笑った。


 倉庫の中に、三人の気配が戻ってきた。


 強豪校の存在。

 素材の壁。

 スポンサーの失敗。


 それでも――

 科学部は、止まらなかった。


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