第6話 スポンサー交渉へ
翌日の放課後。俺たち科学部の三人は、学校近くの商店街に向かって歩いていた。
「本当に行くのか……」
俺――白峰理久は、ため息をついた。
「行くに決まってるでしょ。アポ取ったんだから」
黒江斎はスマホを見ながら歩く。
「僕、こういうの初めてなんですけど……」
雨宮柊は不安そうだ。
「大丈夫。話すのは私だから」
黒江は自信満々だった。
向かった先は、地元で評判の自転車ショップ「サイクル・タカハシ」。
ロードバイクがずらりと並び、店の奥には工具が整然と並んでいる。
「こんにちはー」
黒江が店に入ると、奥から店主らしき男性が出てきた。
「お、君たちが科学部の子か。DM見たよ」
店主は四十代くらいで、優しそうな顔をしていた。
「はい。突然すみません。科学部の黒江です」
「白峰です」
「雨宮です」
「で、ソーラーカー作るって本当なの?」
「本当です」
黒江が即答した。
「でも、うち自転車屋だよ? 車のスポンサーなんて……」
「車じゃなくて“軽量化”です」
黒江は迷いなく言った。
「軽量化?」
「はい。ソーラーカーって、軽さが命なんです。
自転車のフレーム設計って、軽さと強度のバランスが重要ですよね?
そのノウハウを、少しだけ教えてほしいんです」
店主は腕を組んだ。
「なるほどな……確かに、共通点はあるかもしれない」
「もちろん、技術提供は禁止なので、アドバイスだけで十分です。
あと、もし可能なら……少しだけ資金援助を」
「資金援助かぁ……」
店主は少し考え込んだ。
黒江はすかさず続ける。
「宣伝します。科学部のSNSで。
“サイクル・タカハシさんに協力してもらってます”って」
「宣伝……?」
「はい。今、科学部のアカウント、結構伸びてるんです。
学校内で話題になってて」
黒江はスマホを見せた。
フォロワー数はすでに三百を超えている。
「高校生で三百ってすごいな……」
「これからもっと増えます。大会に出れば、地元新聞にも載るかもしれません」
店主は苦笑した。
「君、営業向いてるね」
「よく言われます」
黒江は胸を張った。
「……よし、わかった。少しだけ協力しよう」
「本当ですか?」
三人の声が揃った。
「ただし、うちも余裕があるわけじゃない。
資金は少額だ。代わりに、店のロゴを車体に貼ってくれ」
「もちろんです!」
黒江は深く頭を下げた。
「それと、軽量化の基本くらいなら教えてやるよ。
フレームの構造とか、素材の選び方とか」
「ありがとうございます!」
俺も思わず頭を下げた。
「じゃあ、また来い。時間あるときに教えてやる」
店主は笑った。
店を出ると、黒江が満足げに言った。
「ほらね。スポンサー一件目、ゲット」
「すごいな……」
俺は素直に感心した。
「黒江さん、交渉強すぎません?」
雨宮が言う。
「普通よ。相手のメリットを提示すればいいだけ」
「いや、それが難しいんだよ……」
そんな話をしながら学校へ戻る途中、雨宮がスマホを見て立ち止まった。
「……あれ?」
「どうした?」
俺が聞くと、雨宮は画面を見せてきた。
「これ、見てください」
そこには、ソーラーカー大会の参加校一覧が載っていた。
「うちの県から……三校出るみたいです」
「三校?」
黒江が眉をひそめる。
「はい。そのうち一校が……“県立南条工業高校”」
「南条工業?」
俺は思わず声を上げた。
「ここ、去年の大会で準優勝してます」
「準優勝……」
黒江が固まった。
「つまり、ガチの強豪ってことか」
俺は頭を抱えた。
「はい。しかも、今年は“新型車体で挑む”って記事が……」
「新型って……」
黒江がスマホを奪い取るように覗き込む。
「ちょっと待って。うち、まだ設計すらできてないんだけど」
「うん、知ってる」
俺はため息をついた。
「でも、やるしかないですよね」
雨宮が言った。
「そうだけど……」
黒江はスマホを閉じ、深呼吸した。
「いいわ。強豪がいようが関係ない。
うちはうちのやり方でやるだけ」
「黒江さん、強いな……」
雨宮が笑う。
「強くないとやってられないでしょ。
廃部回避のためにソーラーカー作ってんだから」
俺は空を見上げた。
夕日が沈みかけている。
「……よし。設計、急ぐわ」
「僕も規定の研究、もっと進めます」
雨宮が言う。
「私はスポンサー二件目狙う」
黒江がスマホを構えた。
三人の足取りは、昨日よりずっと軽かった。
強豪校がいようが、経験ゼロだろうが、
もう止まる気はなかった。
科学部は、確実に前へ進んでいた。




