第48話 光の中の決勝
決勝レース当日の朝。
会場の空気は、昨日とはまったく違っていた。
緊張。
期待。
ざわめき。
そして、挑戦者たちの静かな闘志。
「……いよいよだな」
俺――白峰理久は深く息を吸った。
「いよいよよ」
黒江斎が微笑む。
「僕……
怖いですけど、楽しみです」
雨宮柊が言う。
その言葉に、
胸の奥がじんと熱くなった。
観客席の一角で、
巨大な旗が揺れていた。
『走れ!エクストリーマー!』
昨日の壮行会で見た旗だ。
寄せ書きが風に揺れ、
太陽の光を反射して輝いている。
「……来てくれてるんだな」
俺は呟いた。
「町は、
私たちの味方よ」
黒江が言う。
「はい……
本当に……」
雨宮が涙をこぼした。
「白峰くん!」
南条工業の三枝が駆け寄ってきた。
「決勝、
お互い全力でいこう」
「もちろんです」
俺は手を差し出した。
三枝は強く握り返す。
「挑戦者同士、
最高の走りをしよう」
その言葉に、
胸が震えた。
スタートラインに並ぶエクストリーマー。
その車体には――
- 坂出サイクル
- 文具のタカハシ
- 喫茶・海風
- パン工房こむぎ
- 八百屋・青空市場
町の店のロゴが輝き、
その周囲にはクラファン支援者の名前がびっしりと刻まれている。
「白峰くん、温度計測準備できてます」
雨宮が言う。
「配信もスタートしたわ」
黒江がスマホをセットする。
「……いくぞ」
俺はハンドルを握った。
――パンッ!
スタートの号砲が鳴った。
エクストリーマーが走り出す。
南条工業の車体も横で加速する。
「速度、安定してます!」
雨宮が叫ぶ。
「風の流れ、いいわよ!」
黒江が言う。
会場がざわつく。
「すげぇ……」
「昨日より速いぞ……!」
「挑戦者の走りだ……!」
レース中盤。
突然、雲が太陽を覆った。
「白峰くん!
出力が落ちます!」
雨宮が叫ぶ。
「落ち着いて!」
黒江が指示する。
「速度を少し落として、
パネルの角度を調整して!」
「了解!」
俺は角度を微調整した。
しかし――
南条工業が前に出る。
「……くそ……!」
「焦らないで!」
黒江が言う。
「まだ勝負はこれからよ!」
会場の一角から、
突然音楽が流れた。
『走れ、走れ
エクストリーマー
光を集めて
未来へ行け』
「……応援ソング……!」
雨宮が叫ぶ。
「軽音部と吹奏楽部が……
ここまで来てくれたのよ!」
黒江が涙をこぼす。
観客席を見ると――
軽音部と吹奏楽部が、
商店街の旗の下で演奏していた。
「……なんだよこれ……
泣くに決まってるだろ……!」
胸が熱くなる。
「白峰くん!」
雨宮が叫ぶ。
「出力、戻ってきてます!」
「風の流れも安定してるわ!」
黒江が言う。
「よし……
いくぞ!」
南条工業の車体が前を走る。
エクストリーマーが追いかける。
「白峰くん、
あと少しです!」
雨宮が叫ぶ。
「いけるわよ!」
黒江が言う。
俺はハンドルを握りしめた。
「……走れ、エクストリーマー!」
車体が風を切る。
太陽が雲の隙間から差し込み、
パネルが光を吸う。
速度が上がる。
「追いついてる……!」
雨宮が叫ぶ。
「いける……!」
黒江が声を震わせる。
南条工業のメンバーが横で叫んだ。
「来い、俺らのライバル!」
最後の直線。
並走。
風。
光。
音。
涙。
青春のすべてが、
この瞬間に詰まっていた。
――どちらが先だったのか。
わからない。
わからないほどの僅差だった。
会場が静まり返る。
俺は息を切らしながら、
隣を見る。
三枝が笑っていた。
「……最高だったよ、白峰くん」
俺も笑った。
「南条工業のみんな、
お前らも最高だよ」
観客席から、
大きな拍手が起きた。
商店街の旗が揺れる。
軽音部と吹奏楽部が演奏を続ける。
結果はまだわからない。
でも、
青春の頂点に立ったことだけは、
確かだった。




