第47話 挑戦者の地へ
大会当日の朝。
まだ太陽が昇りきらない時間なのに、
学校の正門前には人が集まっていた。
「科学部ー!
頑張れよー!」
「おにぎり持ってきたぞー!」
「旗、忘れるなよー!」
商店街の人たちが、
まるで“町の代表選手”を送り出すように集まっていた。
「……すごいな」
俺――白峰理久は呆然とした。
「すごいわね」
黒江斎が微笑む。
「僕……
緊張してきました……」
雨宮柊が小さく言う。
そのとき、
喫茶店のマスターが肩を叩いた。
「緊張して当然だ。
でもな、
お前らはもう“挑戦者”だ。
胸張って行ってこい」
胸が熱くなった。
バスの前で、
藤川先生が3人を見渡した。
「お前ら、
ここまでよく来たな」
「先生……」
「大会はな、
勝ち負けだけじゃない。
“挑戦した姿”がすでに誇りなんだ」
先生は少し照れくさそうに笑った。
「俺もトラックでエクストリーマーを運んでいく。気持ちはみんな一緒だ」
「でも、
どうせなら勝ってこい」
3人は笑った。
「行ってきます」
「行ってくるわ」
「行ってきます……!」
バスが動き出すと、
商店街の旗が一斉に振られた。
『走れ!エクストリーマー!』
その声が、
胸の奥に深く響いた。
バスの窓から見える景色が、
少しずつ町から“外の世界”へ変わっていく。
「……なんか、
本当に来ちゃったな」
俺は呟いた。
「来たわよ」
黒江が言う。
「ここまで来たんだから、
最後まで走るだけよ」
「はい」
雨宮が頷く。
「僕たち……
強くなりましたね」
その言葉に、
胸がじんとした。
会場に着くと――
そこには全国の強豪校が集まっていた。
洗練された車体。
プロのような整備。
専門的な会話。
「……すげぇ……」
俺は息を呑んだ。
「これが……
全国……」
雨宮が震える声で言う。
「でも、
私たちも挑戦者よ」
黒江が言う。
「胸張っていきましょう」
先生が運んでくれたトラックの荷台が開き、
エクストリーマーが姿を現した。
その瞬間――
周囲の視線が一気に集まった。
「……え、なにこれ」
「すごい……」
「こんな車体、見たことない」
ざわめきが広がる。
車体の側面には、
大きく描かれたスポンサーのロゴが輝いていた。
-坂出サイクル(自転車屋)
-文具のタカハシ(文房具屋)
-喫茶・海風
-パン工房こむぎ
-八百屋・青空市場
どれも、
科学部を最初から支えてくれた店ばかりだ。
そしてその周囲には――
クラウドファンディングで支援してくれた人たちの名前
活動を手伝ってくれた人たちの名前
が、びっしりと書き込まれていた。
「……全部、
私たちが書いたのよ」
黒江が言う。
「大会に行く前に、
どうしても“名前を刻みたかった”んです」
雨宮が続ける。
「僕たちが走れるのは、
この人たちのおかげだから」
俺は車体にそっと触れた。
「この車は、
俺たちだけのものじゃない。
町と全国の人たちの“想い”が乗ってるんだ」
観客席の一角から声が上がった。
「……あれ、うちの店の名前じゃないか」
「ほんとだ……文具のタカハシもある……」
「子どもたちのメッセージまで……」
商店街の人たちが、
車体を見て泣いていた。
「こんなの……
泣くに決まってるだろ……」
「お前ら……
本当にありがとう……」
八百屋の店主が、
ハンカチで目を拭きながら言った。
「走る前から泣かせるなよ……
でも……
誇りだよ。
町の誇りだよ……!」
その声に、
周囲の観客も拍手を送った。
「すげぇ……
スポンサー全部“町の店”じゃん」
「クラファンの名前まで書いてある……」
「こんな車体、見たことない」
「これが……
挑戦者の車か……!」
会場の空気が変わった。
ただの高校生の挑戦ではない。
町と全国が背中を押す“青春の船”だと、
誰もが感じた。
黒江が小さく呟いた。
「……これでいいのよ。
私たちの走りは、
みんなの走りなんだから」
雨宮が微笑む。
「はい。
この車体を見るだけで、
勇気が湧いてきます」
俺は深く息を吸った。
「よし……
行くぞ。
みんなの名前を乗せて」
「白峰くん、黒江さん、雨宮くん!」
聞き覚えのある声がした。
南条工業の三枝が手を振っていた。
「来たな、挑戦者!」
「南条工業のみんな!」
三枝は笑った。
「車体、見たよ。
すごいね…
“町の力”がそのまま形になってる」
「ありがとうございます」
俺は頭を下げた。
「今日は、
全力で戦おう」
三枝が手を差し出す。
俺はその手を握った。
「もちろんです」
「白峰くん、
温度計測準備できてます」
雨宮が言う。
「配信もスタートしたわ」
黒江がスマホをセットする。
エクストリーマーが太陽光を吸い、
静かに唸り始める。
「……いくぞ」
俺は深呼吸した。
「白峰くん、
緊張してます?」
雨宮が聞く。
「してるに決まってるだろ」
「大丈夫よ」
黒江が微笑む。
「だって、
今日のあなた、
“挑戦者の顔”してるもの」
胸が震えた。
エクストリーマーが動き出す。
会場の空気が変わる。
観客がざわつく。
「……走ってる」
雨宮が呟く。
「安定してるわ」
黒江が言う。
5分。
10分。
15分。
「温度、安定してます!」
雨宮が叫ぶ。
「よし……
このままいくぞ!」
そのとき――
「白峰くん!
右側のパネル、ネジが緩んでます!」
雨宮が叫んだ。
「マジか……!」
「落ち着いて!」
黒江が指示する。
「速度を少し落として、
振動を抑えて!」
「了解!」
俺は速度を調整した。
車体が安定する。
「……持ち直した!」
雨宮が叫ぶ。
「いけるわよ!」
黒江が言う。
俺は深く息を吸った。
「……走れ、エクストリーマー!」
ゴールラインを越えた瞬間、
会場から拍手が起きた。
「やった……!」
雨宮が涙を拭う。
「やったわよ……!」
黒江が笑う。
俺は拳を握った。
「……予選突破だ」
そのとき、
観客席の一角で旗が揺れた。
『走れ!エクストリーマー!』
商店街の旗だった。
「……来てくれてたんだな」
俺は呟いた。
「町は、
私たちの味方よ」
黒江が言う。
「はい……
本当に……」
雨宮が涙をこぼした。
科学部は、
全国の挑戦者たちの中で、
堂々と予選を突破した。




