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走り出せ!エクストリーマー!  作者: 双鶴


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第43話 熱を逃がせ

 合同試走会の翌日。

 倉庫の空気は、昨日とはまったく違っていた。


 静かだ。

 でも、その静けさは“諦め”ではなく、

 “集中”の静けさだった。


「……バッテリー温度の上昇、

 やっぱりここが原因ね」

 黒江斎がフレームの内部を覗き込みながら言った。


「空気の逃げ道がないんです」

 雨宮柊がタブレットを見ながら続ける。


「美しい曲線だけど……

 内部の空気が滞留してる」

 俺――白峰理久は、昨日の南条工業の言葉を思い出していた。


『美しさは正しい。

 でも、美しさだけじゃ走れない。

 “流れ”を逃がすんだ。』


「……逃がす、か」

 俺は呟いた。



 そのとき、

 黒江のスマホが震えた。


「また来てるわよ。

 全国からのアドバイス」


 画面には、

 昨日の配信を見た人たちからのメッセージが並んでいた。


“工業高校です。

 内部に“空気抜きダクト”を作るといいですよ”


“大学の流体力学研究室です。

 簡易シミュレーション作りました”


“自動車整備士です。

 バッテリーの熱は“逃がす”より“分散”も大事です”


“南条工業の走り、見ました。

 あなたたちも絶対にできる”


「……すごいな」

 俺は息を呑んだ。


「すごいなんてもんじゃないわよ」

 黒江が言う。


「全国が、

 私たちの“壁”を一緒に越えようとしてる」


 雨宮が静かに言った。


「昨日の涙……

 ちゃんと届いてるんですね」


 倉庫の扉が開いた。


「おーい、科学部!」


 藤川先生が、

 理科の先生と技術の先生を連れて入ってきた。


「昨日の試走会、

 見たぞ」


「先生……」

 俺は思わず姿勢を正した。


「冷却問題、

 俺たちも手伝う」


 技術の先生が言う。


「空気の流れは“構造”の問題だ。

 ここ、少し削ってみろ」


 理科の先生が続ける。


「熱は“逃がす”だけじゃない。

 “伝える”ことも大事だ。

 素材の選び方を見直そう」


 藤川先生が笑った。


「お前ら、

 もう三人だけじゃないぞ」


 胸が熱くなった。



「じゃあ、

 空気抜きダクトを作るわよ」

 黒江が言う。


「内部の空気の流れを、

 “出口”へ誘導します」

 雨宮がタブレットを操作する。


「俺はフレームを削る。

 空気の通り道を作る」

 俺は工具を握った。


 作業が始まった。


 削る音。

 測る音。

 計算する音。


 倉庫は静かだが、

 その静けさは“戦いの静けさ”だった。



 夕方。

 倉庫の扉がノックされた。


「科学部さーん、差し入れだよー!」


 八百屋、パン屋、喫茶店、文房具屋……

 商店街の人たちが次々と入ってくる。


「昨日の試走会、

 泣いたよ!」

「南条工業の子たち、いい子だったねぇ」

「でも、うちの科学部が一番だよ!」


 黒江が笑った。


「……なんでこんなに応援してくれるのよ」


「決まってるだろ」

 喫茶店のマスターが言う。


「お前ら、

 町の“希望”なんだよ」


 雨宮が目を潤ませた。


「……ありがとうございます」



 商店街の人たちが帰り、

 倉庫に静けさが戻った。


「白峰くん、

 ダクトの形、これでどうですか?」

 雨宮が図面を見せる。


「いいな。

 空気が流れやすい」


「黒江さん、

 外装の曲線、調整しました」

「美しさは残しつつ、

 “流れ”を逃がす形にしたわ」


 俺は深く息を吸った。


「……いける。

 これならいける」


「いけるわよ」

 黒江が言う。


「だって、

 今日だけで“全国+町+先生”が

 私たちの味方になったんだから」


 雨宮が静かに言った。


「僕たち……

 強くなりましたね」



 夜。

 倉庫の前で、

 3人はエクストリーマーを見つめていた。


 月明かりが車体を照らしている。


「……絶対に走らせるぞ」

 俺は言った。


「走らせるわよ」

 黒江が微笑む。


「はい。

 絶対に」

 雨宮が頷く。


 3人は拳を合わせた。


「冷却問題、

 絶対に解決する」


「大会までに、

 最高の走りを作る」


「エクストリーマーで、

 青春を走り切る」


 科学部は、

 技術の壁を越えるため、

 再び挑戦の夜へと踏み出した。


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