第41話 壁の向こう側
合同試走会・後半。
前半の走行を終えたエクストリーマーは、
太陽光を浴びながら静かに佇んでいた。
「白峰くん、
すごかったですよ」
雨宮柊が笑顔で言う。
「ありがとう。
でも……
まだ“本番”はこれからだ」
「そうね」
黒江斎が頷く。
「後半は“長距離走行”。
ここで本当の課題が見えるわ」
その言葉に、
胸の奥が少しだけざわついた。
「じゃあ、後半いくよ」
南条工業のメンバーが声をかける。
「白峰くん、
準備できてる?」
「できてる」
太陽光パネルが光を吸い、
モーターが静かに唸る。
「……いくぞ」
エクストリーマーが再び走り出した。
前半よりもスムーズだ。
ステアリングも安定している。
配線も問題ない。
「いい感じですね!」
雨宮が声を上げる。
「このままいけるわよ!」
黒江も笑う。
南条工業のメンバーも拍手していた。
「本当に成長したな……」
誰かが呟く。
しかし、10分後
――ピピッ。
突然、警告音が鳴った。
「……え?」
俺はメーターを見た。
「バッテリー温度……
上がりすぎてる……?」
「白峰くん、止めて!」
雨宮が叫ぶ。
俺は急いでブレーキを踏んだ。
車体が止まる。
モーターが沈黙する。
「……なんでだよ……」
俺は呟いた。
「冷却が……
追いついてない……」
雨宮が震える声で言う。
「昨日まで大丈夫だったのに……」
黒江が唇を噛む。
胸が締めつけられた。
「白峰くん、
見せてもらっていい?」
南条工業のメンバーが駆け寄ってきた。
「……お願いします」
南条のメンバーが車体を囲む。
「バッテリーの温度上昇……
原因は“空気の抜け道”だな」
ひとりが言う。
「複合材の曲線は美しいけど、
内部の空気が滞留してる」
別のメンバーが続ける。
「つまり……
“美しさ”が仇になってるんだ」
リーダーがまとめた。
黒江が息を呑んだ。
「美術の先生のアドバイス……
間違ってたってこと?」
「違うよ」
リーダーは首を振った。
「美しさは正しい。
でも、
“美しさだけ”じゃ走れない」
雨宮が小さく呟いた。
「……どうすればいいんですか」
「空気の流れを、
“逃がす”んだ」
リーダーが言う。
「美しさと機能の両立。
それが本当の車体設計だよ」
その言葉は、
胸に深く刺さった。
「……悔しいな」
俺は呟いた。
「走れたのに……
まだ壁があるなんて……」
「壁があるから、
挑戦なのよ」
黒江が言う。
「壁がなかったら、
青春じゃないわ」
雨宮が静かに言った。
「僕……
もっと強くなりたいです」
南条工業のみんなが微笑んだ。
「君たちは強いよ。
だって、
“壁を見つける勇気”がある」
「白峰くん」
三枝が真剣な目で言った。
「大会までに、
この冷却問題を解決しよう」
「……一緒に、ですか?」
「もちろん」
三枝は笑った。
「ライバルは、
強くなってほしいの。
そのほうが、
戦う価値があるから」
胸が熱くなった。
「……ありがとう」
「礼はいらないよ。
挑戦者同士でしょ?」
夕方。
合同試走会は終了した。
南条工業の車体は完璧だった。
エクストリーマーは課題を抱えた。
でも――
3人の目は、前よりずっと強かった。
「白峰くん」
雨宮が言う。
「今日、
すごく大事な日でしたね」
「そうね」
黒江が微笑む。
「走れた日であり、
壁を知った日でもある」
俺は深く息を吸った。
「……絶対に越えるぞ。
この壁」
「越えるわよ」
「はい」
南条工業のメンバーが手を振った。
「また会おう、挑戦者!」
科学部は、
走れた喜びと、
越えるべき壁を胸に、
次の挑戦へと歩き出した。




