第40話 挑戦者たちの朝
合同試走会の朝。
まだ太陽が低い時間なのに、
倉庫の前にはすでに人が集まっていた。
「科学部ー!
頑張れよー!」
「おにぎり持ってきたぞー!」
「今日は泣かせるなよー!」
商店街の人たちが、
まるで“町の代表選手”を送り出すように集まっていた。
「……なんか、
すごいことになってるな」
俺――白峰理久は苦笑した。
「すごいのは、
“町の温度”よ」
黒江斎が言う。
「今日は、
町全体が私たちの背中を押してるの」
「僕……
泣きそうです」
雨宮柊が目を潤ませた。
「泣くのは帰ってからにしろ」
俺は笑った。
「今日は走る日だ」
試走会場に着くと、
すでに南条工業のメンバーが準備をしていた。
彼らの車体は――
圧倒的に洗練されていた。
流線形のボディ。
無駄のないフレーム。
光を吸い込むようなパネル。
「……すげぇ」
俺は思わず呟いた。
「これが……
南条工業……」
雨宮が息を呑む。
「負けてられないわよ」
黒江が小さく言った。
そのとき、
南条工業のメンバーが歩み寄ってきた。
「白峰くん、黒江さん、雨宮くんですね?」
「えっ……
なんで名前を……」
俺が驚くと、
にっこり笑った。
「君たちの配信、
全部見てるから」
「全部!?」
黒江が目を丸くする。
「もちろん。
君たちの挑戦、
胸を打たれたよ」
雨宮が小さく呟いた。
「……嬉しいです」
「今日は、
お互い全力で走ろう」
南条工業の三枝が手を差し出す。
俺はその手を握った。
「よろしくお願いします」
「まずは車体を見せ合おうか」
南条工業のメンバーが言う。
「もちろんです」
俺たちはエクストリーマーを前に出した。
南条工業のメンバーが、
真剣な目で見つめる。
「……いい車だ」
リーダーが言った。
「ど素人の挑戦とは思えない。
いや、
ど素人だからこそ、
ここまで来れたのかもしれないな」
「ありがとうございます」
俺は頭を下げた。
「ステアリングの戻り角、
昨日直したんだね」
別のメンバーが言う。
「はい。
全国からのアドバイスを参考にしました」
雨宮が答える。
「その姿勢がすごいよ。
隠さず、さらけ出して、
全国を味方につけた」
黒江が微笑んだ。
「挑戦者は、
味方を増やすのが上手いのよ」
「次はこっちの番ね」
三枝が車体を指す。
近づくと、
その完成度に息を呑んだ。
「……美しい」
黒江が呟いた。
「美術の先生が言ってた“流れ”が、
全部ここにある……」
「複合材の層、
完璧ですね……」
雨宮が震える声で言う。
「ステアリングの戻り角、
ほぼゼロ誤差……」
俺は思わず触れた。
三枝はクスッと笑った。
「みんな最初はど素人だったよ。
でも、
挑戦し続ければ、
必ず形になる」
その言葉は、
まるで未来からのメッセージのようだった。
「じゃあ、
まずは南条工業から走るよ」
リーダーが言う。
南条工業の車体が静かに動き出す。
――速い。
――安定している。
――美しい。
「……すげぇ……」
俺は呟いた。
「これが……
全国レベル……」
雨宮が息を呑む。
「でも、
私たちも走るわよ」
黒江が言う。
「エクストリーマーで」
「白峰くん、準備できてますか?」
「できてる」
「雨宮くん、計測お願いします」
「はい」
「黒江さん、配信スタートします」
「任せて」
太陽光パネルが光を吸い、
モーターが静かに唸る。
「……いくぞ」
俺はハンドルを握った。
ゆっくりと、
エクストリーマーが動き出す。
――走った。
「走ってる……!」
雨宮が叫ぶ。
「走ってるわよ!」
黒江も声を上げる。
南条工業のメンバーも拍手していた。
「すごい……
本当に走ってる……」
リーダーが呟いた。
胸が熱くなる。
「エクストリーマー……
お前、
やっぱり走れるんだな……」
安定した走行を見せたところで、
前半の試走は終了した。
「白峰くん、
すごかったですよ」
雨宮が言う。
「ありがとう」
「黒江さん、
配信のコメントすごいです」
「見せて」
画面には――
“泣いた”
“走ってる!”
“青春すぎる”
“エクストリーマー、かっこいい!”
俺は深く息を吸った。
「……後半も走るぞ」
「走るわよ」
「はい」
科学部と南条工業の合同試走会は、
青春の熱を帯びながら、
後半へと進んでいく。




