第4話 スポンサーをつかめ!
体育館裏の倉庫を作業場として確保した翌日。
俺たち科学部は、昼休みに倉庫へ集まった。
「さて、次の課題は資金ね」
黒江斎が腕を組む。
「資金って……そんなに必要なの?」
雨宮柊が不安そうに聞く。
「必要に決まってるでしょ。ソーラーパネル、バッテリー、車体の材料。全部タダじゃないんだから」
「まあ、そりゃそうだな」
俺――白峰理久も頷く。
「で、どうするんだ?」
俺が聞くと、黒江は当然のように言った。
「スポンサーを取るのよ」
「高校生が?」
「高校生だからよ。大人より話聞いてもらえるでしょ」
その自信はどこから来るんだ。
「でも、どうやって?」
雨宮が聞くと、黒江はスマホを取り出した。
「SNS。これが最強の武器」
「SNSでスポンサーって取れるの?」
俺が眉をひそめると、黒江はニヤッと笑った。
「取れるわよ。うまくやればね」
黒江はスマホを操作しながら続けた。
「まず、科学部の公式アカウントを作る。
次に、三人の写真を載せる」
「写真?」
俺と雨宮が同時に声を上げた。
「そう。見た目は武器。使わない理由がない」
「いや、俺は別に……」
「僕も写真はちょっと……」
「文句言わない。どうせ学校中に噂広まってるんだから、今さらよ」
確かに、昨日から廊下で妙に視線を感じる。
“科学部の美形三人組”とかいう、よくわからない呼び名までついているらしい。
「ほら、これ見て」
黒江がスマホを見せてきた。
そこには、校内の匿名掲示板のスクショがあった。
《科学部にヤバい三人入ったらしい》
《全員顔面偏差値高すぎ》
《なんかドラマ始まった?》
《科学部って何してんの?》
《ソーラーカー作るってマジ?》
「……なんでこんなに広まってんだよ」
俺は頭を抱えた。
「いいじゃん。注目されるのは悪いことじゃないですよ」
雨宮が言う。
「そう。注目は武器。スポンサーは“話題性”が大好きなの」
黒江は科学部の公式アカウントを作り、
俺と雨宮に向かって言った。
「はい、並んで」
「え、写真撮るの?」
「撮るの。ほら、早く」
仕方なく並ぶと、黒江はスマホを構えた。
「はい、笑って」
「笑えって言われても……」
「自然に自然に」
「自然って何……」
パシャッ。
「はい、撮れた」
「早くない?」
「一発で十分。ほら、見て」
黒江が見せた写真は、思ったより悪くなかった。
俺は無表情、雨宮はちょっと困った顔。
黒江はその横でクールに立っている。
「これでいいの?」
「これがいいの。作ってる感ゼロの方が逆にウケる」
黒江はその写真を投稿した。
《科学部、始動しました。ソーラーカー作ります。スポンサー募集中》
「投稿したわよ」
黒江が言った瞬間、通知が鳴り始めた。
「え、もう?」
雨宮が驚く。
「ほら、見て」
黒江が画面を見せる。
《いいね!》
《応援します!》
《本当に作るの?》
《スポンサーって何すればいいの?》
《科学部ってどこ?》
「……すごいな」
俺は素直に感心した。
「でしょ? こういうのはスピードが命なの」
黒江はさらに投稿を続ける。
《科学部の活動場所は体育館裏の倉庫です》
《見学歓迎》
《差し入れも歓迎》
「差し入れって……」
俺が呆れると、黒江は平然と言った。
「差し入れは資金の一部よ」
「いや、違うだろ」
「同じよ」
そんなやり取りをしていると、倉庫のドアがノックされた。
「すみませーん、科学部ってここですか?」
女子二人が顔を出した。
手にはコンビニの袋。
「差し入れです! 応援してます!」
「え、もう来たの?」
雨宮が驚く。
「ほらね。SNSの力よ」
黒江が得意げに言う。
袋の中にはスポーツドリンクとお菓子が入っていた。
「ありがとうございます」
俺が受け取ると、女子たちは嬉しそうに去っていった。
「……なんか、本当に始まったな」
俺は呟いた。
「始まったというか、もう止まれないですよね」
雨宮が笑う。
「止まる気ないでしょ?」
黒江が言う。
「まあな」
俺は工具箱を開けた。
「じゃあ、私はスポンサー候補にDM送るから」
黒江がスマホを構える。
「僕は大会の規定、もっと細かく調べます」
雨宮が資料を開く。
「俺は……設計の勉強からだな」
俺はノートを広げた。
倉庫の中に、三人の作業音が響き始めた。
まだ何も形になっていない。
でも、確かに前へ進んでいる。
科学部は、もう後戻りできなかった。




