第39話 前夜の灯り
合同試走会の前日。
放課後の倉庫は、いつもより静かだった。
昨日までの喧騒が嘘のように、
3人は黙々と最終チェックをしていた。
「……よし。
ステアリングの戻り角、問題なし」
俺――白峰理久は工具を置いた。
「配線も安定してます」
雨宮柊がタブレットを見ながら言う。
「パネルの固定も完璧よ」
黒江斎が頷く。
すべてが整っている。
でも、胸の奥はざわついていた。
「……明日、南条工業と走るんだな」
俺はぽつりと言った。
「走るわよ」
黒江が微笑む。
「でも、
“戦う”って感じじゃないわね」
「はい」
雨宮が静かに言った。
「なんか……
“会いに行く”って感じです」
その言葉に、
俺は胸が熱くなった。
倉庫の扉がノックされた。
「科学部さーん、ちょっといいかい?」
八百屋の店主が紙袋を抱えて立っていた。
「明日の試走会、
これ持っていきな」
袋の中には、
商店街の人たちが書いた“応援メッセージ”が詰まっていた。
『走れ!エクストリーマー!』
『泣いてもいい、でも前に進め』
『町の誇りだよ』
『南条工業にもよろしくね』
『怪我だけはしないように』
「……こんなの、
泣くに決まってるだろ……」
俺は目を押さえた。
「泣いていいのよ」
黒江が言う。
「だって、
こんなに応援されてるんだから」
雨宮は紙袋を抱きしめた。
「明日、
絶対に走りましょうね」
そのとき、
黒江のスマホが震えた。
「……また来てる」
「南条工業か?」
俺が聞く。
「ええ。
見て」
『明日、楽しみにしています。
僕たちも全力で走ります。
お互い、最高の一日にしましょう。』
雨宮が微笑んだ。
「南条工業……
本当にいい人たちですね」
「いい人たちよ」
黒江が言う。
「でも、
明日は“挑戦者”として会うの」
俺は深く頷いた。
「……ああ。
明日は、挑戦者同士だ」
作業が終わると、
3人は倉庫の前に座り込んだ。
夕焼けが倉庫の壁を赤く染めている。
「……なんか、
ここまで来たんだな」
俺は呟いた。
「来たわね」
黒江が言う。
「ど素人の挑戦が、
ここまで来たのよ」
「僕……
昨日の応援ソング、
まだ耳に残ってます」
雨宮が微笑む。
「走れ、エクストリーマー……
あれ、すごく良かったですね」
「良かったわね」
黒江が頷く。
「明日、
あの曲を思い出しながら走りましょう」
俺は空を見上げた。
「……怖いけど、
楽しみだな」
「怖いのは、
“本気”だからよ」
黒江が言う。
「本気じゃなかったら、
怖くも悔しくもならないわ」
「そうですね」
雨宮が静かに言った。
「本気で走るから、
本気で怖いんです」
俺は深く息を吸った。
「よし。
明日、
エクストリーマーで走るぞ」
「走るわよ」
「はい」
『明日、南条工業さんと合同試走会です。
怖いけど、楽しみです。
ど素人の挑戦ですが、
全力で走ります。
応援してくれた皆さん、ありがとうございます。』
投稿すると、
コメントが一気に流れた。
“頑張れ!”
“青春だなぁ”
“商店街も応援してるよ!”
“泣いてもいい、でも走れ!”
3人はしばらく画面を見つめていた。
「……よし」
俺は立ち上がった。
「帰って寝るぞ。
明日は、
青春の本番だ」
「本番よ」
「はい」
倉庫の外では、
夜風が旗を揺らしていた。
科学部は、
合同試走会の前夜に、
静かに、しかし確かに、
挑戦者としての灯りをともした。




