第37話 名前を持つ日
月曜日の放課後。
倉庫のシャッターを開けると、
3人のスマホが同時に震えた。
「……ん?」
俺――白峰理久が画面を見る。
「南条工業から……?」
雨宮柊が目を丸くした。
「何?」
黒江斎が覗き込む。
そこには、短いメッセージがあった。
『合同試走会をしませんか?
お互いの改善点を共有し、
大会に向けて高め合いましょう。』
「……合同試走会?」
俺は思わず声を漏らした。
「南条工業と?」
雨宮が震える声で言う。
「すごいじゃない」
黒江が笑った。
「ライバルが“手を取り合おう”って言ってるのよ。
こんな青春、他にないわ」
俺は深く息を吸った。
「……行こう。
南条工業と一緒に走ろう」
「行くわよ」
「はい」
「じゃあ、まずは御礼動画ね」
黒江が三脚をセットする。
「昨日の改善も見せましょう」
雨宮が車体を整える。
3人で並び、カメラに向かう。
「初試走の応援、ありがとうございました」
俺が言う。
「全国からのアドバイス、
全部力になりました」
雨宮が続ける。
「そして――
南条工業さん、
合同試走会のお誘い、
ありがとうございます」
黒江が締める。
動画をアップすると、
コメントが一気に流れた。
“待ってた!”
“改善した車、見せて!”
“南条工業との合同試走会、胸熱すぎる”
“青春ってこれだよな”
“名前は決めたの?”
「……名前」
俺は呟いた。
「そういえば、
まだ名前つけてなかったな」
「つけましょう」
雨宮が微笑む。
「名前があると、
“仲間”って感じがします」
「じゃあ、
今日決めるわよ」
黒江が言った。
3人は車体を外に出した。
複合材の骨格は均一に整えられ、
ステアリング角度は修正され、
曲線は美術の先生の言う“流れ”を帯びていた。
「……昨日より、
ずっと“走りそう”だな」
俺は呟いた。
「走るわよ」
黒江が言う。
「だって、
全国の知恵が詰まってるんだから」
「そして、
町の涙も」
雨宮が静かに言った。
3人は倉庫の前に座り込んだ。
「じゃあ、
名前案出していくわよ」
黒江が言う。
「“光”とか?」
雨宮が言う。
「いや、
もっと挑戦っぽいのがいい」
俺は首を振った。
「挑戦……
ど素人の挑戦……」
黒江が呟く。
「ど素人が、
無謀な挑戦をしてる……」
「無謀……
極端……
エクストリーム……」
雨宮が言葉を繋ぐ。
その瞬間、
3人の声が重なった。
「エクストリーマー……?」
静寂。
そして――
「……いいじゃない」
黒江が微笑む。
「“極端など素人の挑戦者”
って意味にもなるわ」
「僕たちにぴったりですね」
雨宮が頷く。
俺は深く息を吸った。
「よし。
名前は――
エクストリーマーだ」
3人は拳を合わせた。
『試作車の名前が決まりました。
“エクストリーマー”。
ど素人の途方もない挑戦。
僕たちのすべてを込めた名前です。』
投稿すると、
コメント欄が爆発した。
“かっこよすぎる!”
“名前に魂がある”
“南条工業です。素敵な名前ですね”
“商店街からも拍手!”
“青春の匂いしかしない”
「……すごいな」
俺は呟いた。
「すごいのは、
名前じゃなくて“挑戦”よ」
黒江が言う。
「名前はその象徴」
雨宮が静かに言った。
そのとき、
黒江のスマホが震えた。
「……また来てる」
「南条工業か?」
俺が聞く。
「ええ。
見て」
『エクストリーマー。
素晴らしい名前です。
合同試走会で会えるのを楽しみにしています。
共に、最高の走りを。』
俺は笑った。
「……いいやつらだな」
「敵だけどね」
黒江が笑う。
「でも、
“挑戦者”は敵じゃないのよ」
雨宮が頷いた。
「はい。
僕たち、
名前を持ったんですね」
俺は深く息を吸った。
「よし。
エクストリーマーで走るぞ。
南条工業と、町と、みんな一緒に」
「いくわよ」
「はい」
倉庫の外では、
商店街の旗が風に揺れていた。
科学部のソーラーカーは、
ついに名前を持ち、
挑戦者として本当の意味で走り始めた。




