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走り出せ!エクストリーマー!  作者: 双鶴


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35/50

第35話 走り出した日

 土曜日の午前。

 倉庫の前には、いつもより多くの人が集まっていた。


 商店街の人たち、

 先生たち、

 近所の子どもたち、

 そして――

 3人それぞれのファンクラブまで。


「……なんでファンクラブなんてできてるんだよ」

 俺――白峰理久は、顔を覆った。


「事実よ」

 黒江斎は涼しい顔で言った。


「白峰くんの“真面目に頑張る姿”が刺さるんだって」

 雨宮柊が笑う。


「雨宮くんの“優しさ”も人気ですよ」

「黒江さんの“美しさと強さ”は言うまでもないわね」


「やめろ……恥ずかしい……」


 でも、悪い気はしなかった。



「じゃあ、配信スタートするわよ」

 黒江がスマホを三脚にセットする。


「視聴者、もう千人超えてます」

 雨宮が驚いた声を上げた。


「千人!?」

「全国の出場校も見てるみたいですよ」


 コメントが流れる。


“科学部がんばれ!”

“初試走楽しみ!”

“南条工業から来ました!”

“美人すぎる科学部員ほんとにいた”

“イケメン科学部員、走れ!”


「……なんだこれ」

 俺は苦笑した。


「事実よ」

 黒江は平然としている。


「じゃあ、いくぞ」

 俺はハンドルを握った。


 太陽光パネルが光を吸い、

 モーターが静かに唸る。


「白峰くん、気をつけてくださいね」

「任せろ」


 ゆっくりと、車体が動き出す。


 ――走った。


「走ってる……!」

 雨宮が声を上げる。


「走ってるわよ!」

 黒江も叫んだ。


 商店街の人たちが拍手し、

 子どもたちが走りながらついてくる。


 コメント欄が一気に流れた。


“すげぇ!”

“本当に走ってる!”

“高校生がここまでやるのか!”


 胸が熱くなる。


「……これ、やばいな」

 俺は思わず笑った。


「青春って感じですね」

 雨宮が言う。


「青春よ」

 黒江が言った。


「今、私たち、青春してるわ」



 その瞬間だった。


 ――ガクン。


「えっ……?」

 車体が急に揺れた。


「白峰くん、止めて!」

 雨宮が叫ぶ。


 俺は急いでブレーキを踏んだ。


 車体が止まる。

 モーターが沈黙する。


「……動かない」

 俺は呟いた。


「どこ?」

 黒江が駆け寄る。


「ステアリング……

 角度がズレてる」

 俺は震える声で言った。


「昨日の改善が、

 まだ甘かったんだ……」


 コメント欄がざわつく。


“大丈夫?”

“焦らないで!”

“南条工業です。落ち着いて確認を”


 商店街の人たちも駆け寄ってくる。


「科学部、大丈夫かい!」

「怪我はないか!」

「ゆっくりでいいんだよ!」


 その声が、

 胸に刺さった。



「……悔しい」

 俺は顔を覆った。


「あと少しだったのに……

 走れたのに……」


 雨宮が肩を震わせた。


「僕……

 もっとできたはずなのに……」


 黒江も唇を噛んだ。


「悔しいわよ……

 でも……

 でもね……」


 黒江は涙を拭った。


「こんなに応援してもらって、

 泣かないほうが無理よ」


 商店街の人たちも泣いていた。

 ファンクラブの子たちも泣いていた。


 コメント欄も涙で溢れていた。


“泣くなよ……!”

“挑戦してる姿が一番かっこいいよ!”

“市長です。素晴らしい挑戦でした”

“PTA会長です。誇りに思います”


「……市長!?」

「PTA会長まで!?」


 俺たちは泣きながら笑った。



 配信の最後、

 3人でカメラの前に立った。


「今日は……

 失敗しました」

 俺は言った。


「でも、

 走れた瞬間は本物でした」

 雨宮が続ける。


「だから、

 絶対に諦めません」

 黒江が締めた。


「次は、

 “最後まで走る”姿を見せます」


 コメント欄が一気に流れた。


“待ってる!”

“絶対できる!”

“町全体で支えるよ!”

“青春だなぁ……”


 配信が終わると、

 倉庫の中は静かになった。


 でも、

 胸の中は静かじゃなかった。


「……やるぞ」

 俺は言った。


「やるわよ」

「はい」


 科学部は、

 初めての失敗を胸に刻み、

 再び立ち上がった。


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