第33話 さらけ出す勇気
木曜日の放課後。
倉庫の中には、昨日完成した“折れない骨格”が置かれていた。
だが、3人の表情は晴れなかった。
「……ここから先、どうする?」
俺――白峰理久は、フレームを見つめながら言った。
「技術の先生、美術の先生、理科の先生……
みんな本気で見てくれたけど、
それでも“完璧”には遠いわね」
黒江斎が腕を組む。
「僕たち、
やっぱり“ど素人”ですからね」
雨宮柊が苦笑した。
その言葉に、
俺はふっと肩の力が抜けた。
「……そうだよな。
ど素人なんだよ、俺たち」
「そうよ」
黒江が笑った。
「ど素人が、
プロみたいに隠してどうするのよ」
雨宮がゆっくり頷いた。
「隠す技術なんて、
そもそも持ってませんしね」
その瞬間、
倉庫の空気が変わった。
「……よし」
俺はスマホを取り出した。
「全部、出すか」
「出す?」
黒江が眉を上げる。
「うん。
今の状況、
“できてないところ”も“悩んでるところ”も、
全部SNSにアップする」
雨宮が目を丸くした。
「……笑われるかもしれませんよ?」
「笑われてもいいだろ」
俺は言った。
「ど素人なんだから。
でも、
“挑戦してるど素人”なら、
誰かが助けてくれるかもしれない」
黒江がゆっくり笑った。
「いいじゃない。
そういうの、嫌いじゃないわ」
「じゃあ、
やりましょう」
雨宮が頷いた。
3人で撮影した動画をアップした。
『科学部です。
今の状況を正直にお伝えします。
僕たちはど素人です。
でも、挑戦しています。
もしアドバイスがあれば、
どんな小さなことでも教えてください。
隠す技術もありません。
だから、全部さらけ出します。』
投稿して数分後――
反応が、予想外の方向から返ってきた。
“うちの学校もソーラーカー作ってます。
接合部はこうするといいですよ”
“工業高校の教員です。
複合材の層は均一にしたほうが強度が出ます”
“大学で材料工学やってます。
荷重の逃がし方、図にして送りますね”
“自動車整備士です。
ステアリングの角度、気をつけてください”
“美術の先生の言う通り、
曲線は“流れ”が大事です”
「……すごい」
雨宮が画面を見ながら呟いた。
「すごいなんてもんじゃないわよ」
黒江が目を見開く。
「全国からアドバイス来てるじゃない」
「ど素人って言ったからだな」
俺は笑った。
「隠さないって、
こんなに強いんだな」
3人はホワイトボードにアドバイスを書き出した。
【全国からの改善案】
・複合材の層を均一に
・接合部の角度は3度+補強材
・ステアリング角度の見直し
・空気抵抗を減らす曲線
・荷重の逃がし方の再設計
・フレームの“流れ”を意識する
「……これ、全部やるの?」
俺は苦笑した。
「全部やるわよ」
黒江が即答する。
「だって、
“挑戦者”なんだから」
雨宮が静かに言った。
「やりましょう。
全部、力に変えましょう」
3人は黙々と作業を続けた。
複合材の層を削り、
接合部を磨き、
補強材を追加し、
曲線を整え、
荷重の逃がし方を調整する。
気づけば、
倉庫の外は夕焼けに染まっていた。
「……できた」
俺はフレームを持ち上げた。
昨日までの試作品とは違う。
“車”の形が見えてきた。
「すごい……」
雨宮が息を呑む。
「昨日より、
ずっと“走りそう”です」
「走るわよ」
黒江が言う。
「だって、
全国の知恵が詰まってるんだから」
俺は深く息を吸った。
「よし。
明日、組み上げに入るぞ」
「いくわよ」
「はい」
倉庫の空気は、
昨日より静かで、
でも昨日より熱かった。
科学部は、
“ど素人であること”を武器に変え、
試作車を完成へと近づけた。




