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走り出せ!エクストリーマー!  作者: 双鶴


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32/50

第32話 先生たちの目

 水曜日の放課後。

 倉庫のシャッターを開けると、

 見慣れない影が三つ並んでいた。


「お、来たな科学部」

 顧問の藤川先生が手を挙げた。


 その横には――

 白衣姿の理科の先生、

 作業着の技術の先生、

 スケッチブックを抱えた美術の先生。


「……え、なんでこんな豪華メンバーが」

 俺――白峰理久は思わず固まった。


「呼んだんだよ」

 藤川先生が笑った。


「お前ら、クラファン成功したろ?

 町も応援してる。

 だったら、学校も本気で支えなきゃな」


 黒江斎が目を丸くした。


「先生……

 ありがとうございます」


「礼はいらん」

 藤川先生は手を振った。


「俺たちもソーラーカーは素人だ。

 でもな、

 “素人だからこそ見えるもの”もあるんだよ」


 雨宮柊が静かに言った。


「……嬉しいです。

 本当に」



「まずは、これを見せてくれ」

 理科の先生がフレームを手に取った。


 白衣の袖が揺れる。

 目が真剣だ。


「複合材か。

 しなるな……

 でも、戻る。

 いい素材を選んだな」


「ありがとうございます」

 俺は頭を下げた。


「ただな」

 理科の先生はフレームを軽く叩いた。


「この“戻り方”、

 まだ均一じゃない。

 層の厚みが微妙に違うんじゃないか?」


「層……」

 俺は思わず息を呑んだ。


「複合材は“層の均一性”が命だ。

 ここ、0.5ミリだけ厚い。

 触ればわかる」


 黒江が驚いた。


「先生、なんでそんなのわかるんですか」


「理科の教師はな、

 “違和感”に敏感なんだよ」

 先生は笑った。


「専門家じゃなくても、

 触ればわかることはある」



「次は俺だな」

 技術の先生が前に出た。


 手にはノギス。

 目は職人のそれだった。


「接合部、見せてみろ」


 俺が差し出すと、

 先生は無言で角度を測り始めた。


「……3度。

 正確だな」


「南条工業の助言で……」

 俺が言うと、先生は頷いた。


「いいライバルだな。

 だが――」


 先生は接合部の裏側を指差した。


「ここ、削りすぎだ。

 強度が落ちる」


「えっ……」

 俺は目を見開いた。


「見た目を整えようとして削っただろ。

 気持ちはわかる。

 でも、

 “見た目より強度”だ」


 雨宮が小さく呟いた。


「……気づかなかった」


「気づけなくて当然だ」

 技術の先生は笑った。


「お前らはまだ高校生だ。

 でも、

 “気づこうとする姿勢”がある。

 それが一番大事だ」



「じゃあ、次は私ね」

 美術の先生がスケッチブックを開いた。


「ソーラーカーって、

 “美しさ”も大事なのよ」


「美しさ……?」

 黒江が首を傾げる。


「そう。

 空気抵抗を減らす形は、

 必ず“美しい”の」


 先生はフレームの曲線を指でなぞった。


「ここ、少しだけ角度が硬い。

 もっと“流れ”を意識するといいわ」


「流れ……」

 雨宮が呟く。


「光の流れ、風の流れ、

 そして“物語の流れ”。

 全部つながってるのよ」


 黒江が笑った。


「美術の先生って、

 やっぱり詩人ですね」


「詩人でいいのよ」

 先生は微笑んだ。


「美しいものは、

 強いの」



 先生たちが帰ったあと、

 倉庫は静かになった。


 でも、

 胸の中は静かじゃなかった。


「……すごかったな」

 俺は呟いた。


「すごいのは、

 “本気で見てくれた”ってことよ」

 黒江が言う。


「専門家じゃなくても、

 真剣に向き合えば、

 ちゃんと届くのよ」


 雨宮が静かに言った。


「なんか……

 大人って、

 すごいですね」


「すごいわよ」

 黒江が笑う。


「でも、

 私たちも“挑戦者”よ。

 大人に負けてられない」


 俺は深く息を吸った。


「よし。

 今日のアドバイス、全部反映する」


「やるわよ」

「はい」


 倉庫の空気は、

 昨日より静かで、

 でも昨日より強かった。


 科学部は、

 先生たちの“本気”を受け取り、

 次の段階へ進み始めた。


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