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走り出せ!エクストリーマー!  作者: 双鶴


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第31話 折れない

 火曜日の放課後。

 倉庫の中には、昨日とは違う緊張が漂っていた。


 角度3度の接合部。

 南条工業の助言を受けて作り直した“新しい骨格”。


 机の上に置かれたそれは、

 昨日までの試作品とは明らかに違う存在感を放っていた。


「……いくぞ」

 俺――白峰理久は、フレームを持ち上げた。


 軽い。

 でも、手に伝わる“芯”が違う。


「昨日より、

 ずっと“生きてる”感じがしますね」

 雨宮柊が言った。


「生きてるって何よ」

 黒江斎が笑う。


「でも、わかるわ。

 昨日のは“ただの材料”だったけど、

 今日のは“骨格”になってる」


 俺は頷いた。


「じゃあ、強度テストいくぞ」



 フレームを固定し、

 荷重装置をセットする。


「まず10キロ」

 黒江がメモを構える。


 ――ミシ。


 しなる。

 でも、戻る。


「問題なし」

 雨宮が言う。


「次、15キロ」


 ――ミシッ。


 昨日より音が柔らかい。

 “折れる前の悲鳴”じゃない。


「いいわね」

 黒江が頷く。


「次、20キロ」


 ――ミシ……ミシ……


 しなる。

 でも、折れない。


「……耐えてる」

 俺は息を呑んだ。


「昨日はここで割れたのに」

 雨宮が言う。


「じゃあ、25キロ」

 黒江が指示を出す。


 ――ミシッ……ミシ……


 それでも折れない。


「すごい……」

 雨宮が目を見開く。


「角度3度、正解ですね」


「南条工業のおかげだな」

 俺は苦笑した。


「敵に助けられるって、

 なんか変な感じだ」


「敵じゃないのよ」

 黒江が言う。


「“挑戦者”は、

 同じ山を登る仲間なの」


 その言葉が、

 胸に静かに落ちた。



そして、30キロ


「……いくか」

 俺は深呼吸した。


「いくわよ」

 黒江が言う。


「ここを越えたら、

 “折れない”って言える」


 雨宮が静かに頷いた。


「お願いします」


 俺は荷重をかけた。


 ――ミシッ……ミシ……ミシ……


 しなる。

 戻る。

 またしなる。


 でも――


 折れない。


「……っ」

 俺は息を止めた。


「耐えてる……」

 雨宮が震える声で言った。


「耐えてるわね」

 黒江がゆっくり笑った。


「白峰、

 これ、成功よ」


 俺はフレームをそっと持ち上げた。


 軽い。

 でも、昨日までとは違う。


 “折れない”という確信が、

 手のひらに残っていた。


「……やったな」


「やったわよ」

 黒江が笑う。


「これで、

 “走れる車”になる」


 雨宮が静かに言った。


「嬉しいですね。

 なんか……

 胸が熱くなります」



 俺たちは、

 正直に、そして誇りを持って投稿した。


『角度3度の接合部、

 ついに“折れませんでした”。

 南条工業さんの助言のおかげです。

 町の皆さん、応援ありがとうございます。

 ここから本気で走ります。』


 投稿して数分後、

 反応が返ってきた。


“すごい!”

“科学部、本当にやった!”

“技術も礼儀もあるって最強”

“イケメン科学部員、ガチでかっこいい”

“美人すぎる科学部員、惚れる”

“南条工業との関係、尊い”

“町の誇りだよ”


「……なんだこれ」

 俺は苦笑した。


「事実よ」

 黒江は平然としている。


「顔も技術も礼儀もある。

 そりゃ話題になるわよ」


「言い方よ……」

 俺は呆れた。


 雨宮が笑った。


「でも、

 “折れなかった”って、

 こんなに嬉しいんですね」



 そのとき、

 黒江のスマホが震えた。


「……また来てる」


「南条工業か?」

 俺が聞く。


「ええ。

 見て」


 画面には、

 短いコメントがあった。


『成功、おめでとうございます。

 角度3度は、私たちも最初に苦労した部分です。

 大会で会えるのを楽しみにしています。』


 俺は言葉を失った。


「……いいやつらだな」


「敵だけどね」

 黒江が笑う。


「でも、

 “挑戦者”は敵じゃないのよ」


 雨宮が頷いた。


「はい。

 僕たち、

 ここから本当に走り出しますね」


 俺は深く息を吸った。


「よし。

 次は“車体の組み上げ”だ」


「いくわよ」

「はい」


 倉庫の外では、

 商店街の旗が風に揺れていた。


 科学部は、

 ついに“折れない骨格”を手に入れた。

 そして、

 大会へ向けて本当の走りが始まった。


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