第21話 数字の音
クラファン公開から三時間。
昼休みの教室は、いつもよりざわついていた。
「科学部のページ、もう見た?」
「リターン豪華じゃん」
「試走見学って、あれ本当に行けるの?」
「ていうか、写真の破壊力どうなってんの」
俺――白峰理久は、机に置いたスマホを横目で見た。
画面の数字は、ゆっくり、でも確実に増えている。
67人。
黒江斎が、椅子を半回転させてこちらを向いた。
「白峰、顔が固い。もっと喜んでいい数字よ」
「いや……実感が追いつかないだけだ」
「追いつかせなさいよ。
67人って、普通に文化祭の来場者数レベルよ」
雨宮柊は、弁当を食べながら静かに言った。
「数字って、こんなに“音”があるんですね」
「音?」
俺が聞くと、雨宮はスマホを軽く揺らした。
「ほら、更新されるたびに、
胸の奥が“トン”って鳴りません?」
黒江が笑った。
「詩人みたいなこと言うじゃない」
「詩人じゃないですよ。
ただ……人が“参加してくれてる”って思うと、
なんか、胸が動くんです」
俺は画面を見つめた。
68人。
数字がひとつ増えるだけで、
確かに胸の奥が“トン”と鳴った。
「……わかる気がする」
「でしょ?」
雨宮は微笑んだ。
「数字って、冷たいようで温かいんですよね」
黒江がタブレットを開いた。
「リターンの内訳も面白いわよ。
500円の“お礼動画”が一番人気。
次が“ステッカー”。
で、意外と“車体に名前”も伸びてる」
「名前って……そんなに魅力あるのか?」
俺が言うと、黒江は肩をすくめた。
「そりゃそうよ。
自分の名前が走るんだから。
しかも、うちらの車で」
「うちらの車って言うなよ」
俺は笑った。
「でも……悪くないな」
雨宮がタブレットを覗き込みながら言った。
「“試走見学+記念写真”も、
すでに三人申し込んでますね」
「三人!?」
俺は思わず声を上げた。
「いや、あれ一万円だぞ」
「一万円でも“価値がある”って思われたのよ」
黒江は淡々と言った。
「それだけ、
“3人の物語”が届いてるってこと」
俺は言葉を失った。
数字が増えるたびに、
誰かが“参加してくれている”という実感が押し寄せる。
71人。
黒江が言った。
「白峰、
あんたの写真、コメント欄で褒められてるわよ」
「褒められても困るんだけど……」
「困らなくていいの。
クラファンは“見られること”が仕事なんだから」
雨宮が静かに言った。
「でも、
見られるって、悪いことじゃないですよね」
「そうか?」
俺は首をかしげた。
「はい。
だって、
“見てくれる人がいる”ってことは、
僕らがちゃんと存在してるってことですから」
黒江が少しだけ目を細めた。
「……雨宮、今日なんかいいこと言うわね」
「いつも言ってますよ」
雨宮は笑った。
そのとき、
スマホが震えた。
72人。
黒江が言った。
「放課後、倉庫で“お礼動画”撮るわよ。
最初の50人分、まとめて」
「50人分!?」
俺は驚いた。
「50人に向けて“ひとつ”撮るのよ。
個別じゃないわよ。
死ぬでしょ」
「そりゃそうだな……」
「白峰は真ん中ね。
雨宮は柔らかい笑顔担当。
私は締めの挨拶」
「役割決まってるのかよ」
俺は呆れた。
「決まってるわよ。
見せ方は戦略なんだから」
雨宮が言った。
「黒江さん、
今日ちょっと楽しそうですね」
「楽しいわよ。
数字が動くって、
こんなに気持ちいいんだって初めて知った」
俺は深く息を吸った。
73人。
数字が増えるたびに、
胸の奥で“トン”と音が鳴る。
これは、
俺たちの挑戦が“外の世界”に届いている証拠だ。
「……よし」
俺はスマホを閉じた。
「放課後、動画撮ろう」
「もちろん」
黒江が笑った。
「今日のうちら、
ちょっとだけ“学校の顔”よ」
雨宮が頷いた。
「はい。
3人で、ちゃんと前に進んでます」
チャイムが鳴り、
教室がざわつき始めた。
でも、
そのざわつきは昨日までのものとは違った。
期待と、
好奇心と、
新しい風の匂い。
数字が動く音が、
今日も胸の奥で鳴り続けていた。




