第20話 許可と、はじまり
昼休みのチャイムが鳴ると同時に、
職員室のドアが開いた。
「科学部、クラウドファンディングの件だが――」
教頭が書類を手に、俺たちの前に立った。
「申請、正式に許可する。
ただし、学校名の扱いには十分注意すること。
トラブルが起きたら即中止だ。いいな」
「はい」
俺――白峰理久は深く頭を下げた。
黒江斎は、胸の前で小さくガッツポーズを作った。
雨宮柊は、ほっと息をついた。
「よし。
これで“外に出られる”」
黒江が呟いた。
「外って……大げさだな」
俺が言うと、黒江は首を振った。
「大げさじゃないわよ。
学校の外に向けて“お願い”するって、
そういうことなんだから」
雨宮が書類を見ながら言った。
「許可が下りたということは……
リターン内容も正式に決めないといけませんね」
「そうだな」
俺は頷いた。
「昨日の案、まとめてきた」
黒江がタブレットを開く。
画面には、
クラファンのリターン案が整然と並んでいた。
リターン案(黒江案)
- 500円:お礼メッセージ(動画)
- 1000円:進捗レポートPDF
- 3000円:自転車屋コラボステッカー
- 5000円:車体に支援者の名前を刻む
- 10000円:試走見学+3人との記念写真
「……写真って、本当にやるのか」
俺は眉をひそめた。
「やるわよ」
黒江は即答した。
「私たち、知識はまだ浅いけど――
“見せ方”なら勝てる。
顔も、雰囲気も、物語も」
雨宮が笑った。
「黒江さん、言い切りましたね」
「言い切るわよ。
だって、事実でしょ?」
俺はため息をついた。
「まあ……否定はしないけどさ」
「否定しないなら採用ね」
黒江は軽く笑った。
雨宮がタブレットを覗き込みながら言った。
「金額設定も妥当ですね。
高校生のクラファンとしては、
これ以上高いと逆に怪しまれますし」
「だろ?」
黒江は満足げだった。
「それに、
“車体に名前を刻む”っていうのは、
地元の人に刺さると思うのよ」
「確かに……」
俺は頷いた。
「自分の名前が走るって、
ちょっとワクワクするよな」
「そういうこと」
黒江は指を鳴らした。
「クラファンって、
“物語に参加したい人”が支援するのよ。
私たちはその入口を作るだけ」
雨宮が静かに言った。
「じゃあ、
文章は僕が仕上げます。
“参加したくなる物語”にします」
「頼んだ」
俺は言った。
「写真は白峰くんね」
黒江が言う。
「なんで俺なんだよ」
「一番カメラ映えするからよ」
「……お前、そういうの恥ずかしくないのか」
「ないわよ。
使える武器は全部使うのが戦略でしょ」
雨宮が笑った。
「黒江さん、今日ちょっと楽しそうですね」
「楽しいわよ。
“外に出る”って、こういうことなんだなって思って」
俺は窓の外を見た。
校庭の向こうで、
野球部が声を張り上げている。
その声が、
いつもより遠く感じた。
「……俺たち、本当にやるんだな」
「やるわよ」
黒江は言った。
「ここから先は、
“数字”が私たちを評価するの」
「数字か……」
俺は呟いた。
「怖いけど、楽しみでもあるな」
「そういう顔してる」
雨宮が笑った。
「白峰くん、
“挑戦する顔”になってますよ」
「挑戦する顔ってなんだよ」
「いい顔ってことです」
黒江がタブレットを閉じた。
「じゃあ、放課後に最終チェックして、
今日の夜に公開するわよ」
「今日の夜?」
俺は驚いた。
「早くないか?」
「早いほうがいいの。
勢いがあるうちに出す。
クラファンは“タイミング”が命よ」
雨宮が頷いた。
「じゃあ、
今日が“本当のスタート”ですね」
「そういうこと」
黒江は言った。
「科学部は、今日から外に向かって走り出す」
チャイムが鳴り、
教室がざわつき始めた。
でも、
そのざわつきは昨日までのものとは違った。
期待と、
少しの緊張と、
新しい風の匂い。
俺は深く息を吸った。
数字が動く日が、始まる。




