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走り出せ!エクストリーマー!  作者: 双鶴


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14/22

第14話 距離の始まり

 昼休みの廊下は、昨日よりもざわついていた。


「科学部、また取材入るらしいよ」

「白峰くんって、あの静かな人でしょ?」

「雨宮くん、優しそうだよね」

「黒江さん、最近なんか怖い」


 声は小さいのに、耳に入ってくる。


 俺――白峰理久は、弁当を持ったまま立ち止まった。


「……なんか、空気変わってない?」

 隣で雨宮柊が言う。


「変わってるな。悪い意味で」


「悪い……ですか?」


「良い意味で変わることなんて、滅多にないだろ」


 雨宮は苦笑した。


「黒江さん、大丈夫ですかね」


「大丈夫じゃないだろ。あいつ、こういうの嫌いだし」


 教室に戻ると、黒江斎は机に突っ伏していた。


「……お前、寝てんのか」

「寝てない。現実逃避してるだけ」


「それ寝てるのと同じだろ」


 黒江は顔を上げた。

 目の下にクマができている。


「なんかさ、視線が痛いのよ。

 “調子乗ってる”って空気がすごい」


「言われたのか?」

「言われてない。でも、空気でわかるのよ」


 黒江は強い。

 でも、強い人ほど“空気”に敏感だ。


「……まあ、気にすんなよ」

「気にするわよ。女子ってそういう生き物なの」


「知らんがな」


 雨宮が静かに言った。


「黒江さん、今日は無理しないほうがいいですよ」


「無理してない。

 ただ……ちょっとだけ、疲れた」


 その言葉は珍しかった。


 黒江が弱音を吐くのは、本当に珍しい。


 そのとき、教室のドアが開いた。


「白峰さん、いますか」


 声の主は三枝だった。


 教室が一瞬静まり返る。

 他校の制服。

 無表情の天才。

 そして、科学部の“噂の中心”。


 黒江が小声で言った。


「……来たわね」


「来たな」


 雨宮は苦笑した。


「三枝さん、空気読めないタイプですね」


「いや、読んでるけど読めないふりしてるんだろ」


 三枝は俺の前まで来て、軽く頭を下げた。


「今日、少しだけ……見学してもいいですか」


「今日“だけ”か?」

 俺はあえて聞いた。


 三枝は一瞬だけ目を伏せた。


「……はい。今日だけです」


 その言い方に、何かを悟った。


 たぶん、南条工業側から何か言われたんだろう。


 俺は頷いた。


「わかった。じゃあ放課後な」


「ありがとうございます」


 三枝は去っていった。


 教室の空気は、さっきよりさらに重くなった。


 黒江がため息をついた。


「……これ、完全に“敵”増やしてるわね」


「敵って……」

 雨宮が苦笑する。


「いや、冗談じゃなくて。

 “他校の天才が科学部に入り浸ってる”って噂、

 もう広まってるから」


「入り浸ってねぇよ」

 俺は否定した。


「でも、そう見えるのよ。

 現実なんてどうでもよくて、

 “どう見えるか”が全てなの」


 黒江の言葉は妙に重かった。


 放課後、倉庫に行くと三枝が待っていた。


「……今日で最後なんだろ」

 俺が言うと、三枝は小さく頷いた。


「はい。

 南条工業の顧問に……“敵チームに近づきすぎるな”と言われました」


「まあ、そうだよな」


「でも……来たかったんです。

 ちゃんと、言っておきたくて」


 三枝は作業台の前に立ち、ゆっくりと言った。


「私は……あなたたちのやり方が好きです。

 でも、私は南条工業の一員です。

 だから、ここにいるべきではありません」


 雨宮が静かに言った。


「三枝さん……」


「でも、あなたたちが“勝ちたい”と言ったこと、

 私は嬉しかったです」


 黒江が腕を組んだ。


「じゃあ、もう来ないの?」


「来ません。

 でも……敵として、全力で戦います」


 その言葉は、妙に清々しかった。


 俺は言った。


「……いいじゃん。

 敵でも、友達でも、どっちでもいい。

 お前が本気で来るなら、俺たちも本気で行く」


 三枝は少しだけ笑った。


「はい。

 では……また大会で」


 そう言って、倉庫を出ていった。


 扉が閉まる音が、やけに大きく響いた。


 黒江がぽつりと言った。


「……なんか、寂しいわね」


「寂しいのかよ」

 俺が言うと、黒江は肩をすくめた。


「だって、あの子……素直で可愛いじゃん」


「可愛いって……」

 雨宮が苦笑した。


「でも、これでいいんですよね」

 雨宮が言う。


「うん。

 科学部は3人でやるものだし」


 俺は作業台に向き直った。


「よし。

 ここからは、俺たち3人で勝つぞ」


 黒江が笑った。


「当たり前でしょ。

 勝つって言ったの、あんたなんだから」


 雨宮も頷いた。


「三枝さんに胸張れるように、頑張りましょう」


 倉庫の空気は、昨日より静かで、

 でも昨日より強かった。


 科学部は、3人に戻った。

 そして、ここから本当の戦いが始まる。


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