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走り出せ!エクストリーマー!  作者: 双鶴


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第12話 最初の成功

 翌日の放課後。倉庫の前に着くと、すでに三枝がいた。


「……早くない?」

 俺――白峰理久が言うと、三枝はこくりと頷いた。


「はい。今日は、ちゃんと見たいので」


「昨日も見てただろ」

 黒江斎が言う。


「昨日は……緊張してました」


「緊張?」

 雨宮柊が驚く。


「はい。初めて“普通科の部活”を見たので」


「普通科の部活ってそんなに珍しいか?」

 俺が聞くと、三枝は少し考えてから言った。


「珍しいというか……自由すぎて、どう接していいかわからないんです」


 黒江が吹き出した。


「三枝さん、意外と不器用ね」


「不器用……?」

 三枝は首をかしげた。


「いや、悪い意味じゃなくて。

 天才って、逆に“普通の空気”に慣れてないのよ」


「普通の空気……」


 三枝はその言葉を反芻するように呟いた。


 倉庫に入ると、昨日折れた試作フレームが作業台に置かれていた。


「……これ、直すんですか?」

 三枝が聞く。


「直すっていうか、作り直す」

 俺はアルミパイプを手に取った。


「昨日言ってた“補強の方向”ってやつ、もう一回説明してくれ」


 三枝は少しだけ目を輝かせた。

 “教えるモード”に入ったらしい。


「はい。

 白峰さんのフレーム、考え方は正しいんです。

 でも、力の流れを“線”で考えているから失敗するんです」


「線じゃなくて……?」


「“面”で考えてください」


「面?」


「はい。

 車体にかかる力は、点でも線でもなく“面”で広がります。

 だから、補強材も“面で受ける”ように配置しないといけません」


 黒江が小声で言った。


「三枝さん、急に饒舌ね」


「教えるの好きなんですよ」

 雨宮が笑う。


「好き……かどうかはわかりませんけど、

 “わかってもらえる”のは嬉しいです」


 三枝は照れたように視線をそらした。


 俺はアルミパイプをバイスに固定し、ノコギリを握った。


「じゃあ……やってみるか」


 ギコッ、ギコッ。


 昨日よりも迷いがない。

 三枝の説明が、頭の中で線から面へと変わっていく。


「白峰さん、そこは少し角度をつけてください」

「こうか?」

「はい。力が逃げやすくなります」


 雨宮が横でメモを取っている。


「三枝さん、説明うまいですね」

「うまい……ですか?」

「はい。僕でも理解できますし」


 三枝は少しだけ頬を赤くした。


「……ありがとうございます」


 黒江が腕を組んで言った。


「なんか、三枝さんって“天才”っていうより“真面目な後輩”って感じね」


「後輩……?」

 三枝はまた首をかしげた。


「悪い意味じゃないわよ。

 むしろ、うちの部活に一番足りないタイプ」


「足りない……?」


「真面目さ」


「いや、俺は真面目だろ」

 俺が言うと、黒江は即答した。


「白峰くんは“真面目に見えるタイプ”でしょ。

 実際は勢いで動くじゃん」


「勢いって……」


「昨日、補強材逆に入れて折ったじゃん」


「それは……まあ……」


 雨宮が笑った。


「でも、今日は折れてませんよ」


「そうだな」


 俺は新しいフレームを持ち上げた。

 昨日と違い、手に伝わる感触が“しっかりしている”。


「……おお」


「どうですか?」

 三枝が聞く。


「なんか……強い気がする」


「気がするじゃなくて、強いです」

 三枝は断言した。


「昨日のより、明らかに力の流れが自然です。

 これなら、試走くらいは耐えます」


「マジか……」


 胸の奥が熱くなった。

 初めて“成功の手応え”を感じた。


 黒江がニヤッと笑った。


「ほら、白峰くん。天才に褒められてるじゃん」


「褒められてねぇよ……」


「褒めてますよ」

 三枝が小さく言った。


 その瞬間、倉庫の外から声がした。


「ねえ、あれ黒江じゃない?」

「最近調子乗ってない?」

「科学部ってそんなに偉いの?」


 黒江がため息をついた。


「……来たわね」


「何が?」

 俺が聞くと、黒江は肩をすくめた。


「嫉妬よ。

 “美形三人組が注目されてる”ってだけで、

 面白くない人は一定数いるの」


「黒江さん、気にしてるんですか?」

 雨宮が聞く。


「気にしてないわよ。

 ただ……めんどくさいだけ」


 三枝がぽつりと言った。


「……うちも同じです」


「え?」

 三枝は少しだけ視線を落とした。


「南条工業でも、私が“特別扱い”されてるって言われます。

 だから……気持ちは、少しわかります」


 黒江は驚いたように三枝を見た。


「……あんた、意外と苦労してるのね」


「苦労……というほどではないですけど」


 雨宮が笑った。


「三枝さん、僕らと似てますね」


「似て……ますか?」


「はい。

 “勝手に期待されて、勝手に嫉妬される”っていう意味で」


 三枝は少しだけ笑った。


「……そうかもしれません」


 倉庫の空気が、昨日よりも柔らかくなった。


 折れたフレーム。

 初めての成功。

 嫉妬の視線。

 天才の本音。


 全部が混ざって、科学部はまた一歩前へ進んだ。


「よし。次は車体の底面だな」

 俺が言うと、三枝が小さく手を挙げた。


「……手伝ってもいいですか」


「え?」


「興味があるので」


 黒江が笑った。


「いいじゃん。

 “天才1年”がうちの手伝いなんて、最高の宣伝よ」


「宣伝って言うなよ……」


 雨宮が静かに言った。


「でも、三枝さんが来てくれるの、普通に嬉しいですよ」


 三枝は照れたように頷いた。


「……よろしくお願いします」


 こうして、科学部は“3人+1”になりつつあった。


 まだ正式な仲間ではない。

 でも――

 確かに共通の思いを持つ同志が増えた瞬間だった。


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