表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
走り出せ!エクストリーマー!  作者: 双鶴


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/22

第11話 三枝の本音

 倉庫の前に立った三枝は、しばらく無言だった。


 昨日までの“無表情で淡々とした天才”という印象とは違う。

 目が泳いでいる。というか、落ち着きがない。


「……入っていいですか」


 声が小さい。

 昨日の堂々とした態度はどこへ行った。


「いいけど、狭いぞ」

 俺――白峰理久が言うと、三枝はこくりと頷いた。


 倉庫の扉を開けると、三枝は一歩だけ中に入り、すぐ止まった。


「……これ、本当に作業場なんですか」


「そうだけど」

 黒江斎が肩をすくめる。


 三枝は周囲を見回した。

 古い跳び箱、埃っぽいマット、ブルーシート。

 工具は借り物ばかり。


 そして、ぽつりと言った。


「……うらやましい」


「は?」

 俺と黒江が同時に声を上げた。


「うらやましい、です」

 三枝は視線を落とした。


「南条工業は……設備が整いすぎていて。

 “自由にやる”っていう感覚が、あまりないんです」


 雨宮柊が目を丸くした。


「自由……?」


「はい。

 “勝つために最適な方法を選べ”って言われるので。

 自分のやりたいことより、結果が優先されます」


 黒江が腕を組んだ。


「それ、強豪校って感じね」


「そうなんですけど……」

 三枝は少しだけ笑った。

 昨日より柔らかい表情だった。


「こういう場所で、三人で相談しながら作ってるの、いいなって」


 俺は思わず言った。


「いや、うちはうちで大変だぞ。

 金ないし、工具ないし、知識もないし」


「でも、楽しそうです」


「楽しそう……?」

 黒江が眉をひそめる。


「はい。

 “勝つために集められた人”じゃなくて、

 “たまたま集まった人”が頑張ってる感じが」


 雨宮が小さく笑った。


「それ、僕も昨日言いました」


「え、そうなんですか?」

 三枝が驚く。


「はい。なんか、似てますね」


 三枝は少しだけ照れたように視線をそらした。

 天才なのに、こういうところは普通の一年生だ。


 そのとき、俺の試作フレームが目に入った。


「……あ、そうだ。ちょっと見てくれよ」


「見てもいいんですか?」

 三枝が近づく。


「まだ試作だけどな。

 アルミに補強材を入れて、軽さと強度のバランスを――」


 言い終わる前に、

 “パキッ”

 という音がした。


「……え?」


 補強材を入れたはずの部分が、

 真ん中から折れた。


「ちょっと待て、なんでここが折れるんだよ!」

 俺は慌ててフレームを持ち上げた。


 三枝は、折れた部分をじっと見つめた。


「……白峰さん、これ」


「何だよ」


「補強材、入れる位置が逆です」


「逆……?」


「はい。

 力がかかる方向と、補強の方向が合っていません。

 これだと、むしろ弱くなります」


「マジかよ……」


 俺は頭を抱えた。


 黒江が呆れたように言う。


「白峰くん、昨日“突破口見えた”って言ってたじゃん」


「見えたけど折れたんだよ!」


「見えただけで突破してないじゃん」


「うるせぇ!」


 雨宮が苦笑した。


「でも、折れた理由がわかったのは前進ですよね」


「前進っていうか……後退じゃね?」

 俺は折れたフレームを見つめた。


 三枝は、少しだけ申し訳なさそうに言った。


「でも……考え方は間違ってないと思います」


「え?」


「“全部を強くするんじゃなくて、必要なところだけ強くする”っていう考え方。

 それは正しいです。

 ただ、方向が違っただけで」


 黒江がニヤッと笑った。


「ほら、白峰くん。天才に褒められてるじゃん」


「褒められてねぇよ……」


「褒めてますよ」

 三枝が小さく言った。


 その瞬間、倉庫の外から声がした。


「ねえ、あれ三枝じゃない?」

「なんでうちの学校に?」

「科学部、南条工業と繋がってるの?」


 黒江がため息をついた。


「……これ、完全に嫉妬買ってるわね」


「嫉妬?」

 俺が聞くと、黒江は肩をすくめた。


「“美形三人組の科学部に、天才1年が来てる”って構図よ。

 そりゃ騒がれるでしょ」


「いや、そんなつもりじゃ……」

 三枝が困った顔をする。


「わかってるわよ。

 でも、学校ってそういうとこだから」


 雨宮が静かに言った。


「三枝さん、気にしなくていいですよ。

 僕ら、慣れてますから」


「慣れてるんですか?」

「はい。昨日からずっと見られてますし」


 三枝は少しだけ笑った。


「……変な学校ですね」


「変なのはうちじゃなくて、お前ら強豪校だろ」

 俺が言うと、三枝は首を振った。


「いえ。

 “楽しそうに作ってる”っていうのは、

 うちにはないので」


 その言葉は、妙に胸に残った。


 折れたフレーム。

 嫉妬の視線。

 天才の本音。


 全部が混ざって、倉庫の空気が少しだけ変わった。


 でも――

 悪くない。


 むしろ、ここからが本番だと思えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ