第九話〜マルキュー〜
「わー!やっぱ人多いねえ!」
じんじんと身を包む暑さの中、疲れを感じさせないアカネの声がよく響いた。
しかしこの暑い中よくこんだけ外へ出てくるもんだと感心するほどの人混み。
そんなここは大東皇国の都心ど真ん中、谷渋。
「ちょっとアキラ!置いて行っちゃうよ!」
こちらを振り向きながら器用に人混みをスイスイと進むアカネ、そして、ミナトさん。
なんだか妙に歩き慣れている、あいつもしかして俺に黙って何度か来てるんじゃねえだろうな。
そんなことを訝しむ俺だったが、ぜえはあと人混みに疲れながらもようやく辿り着いた、マルキュー。
「で、そろそろ教えてくれよ。何を買うんだ?」
アカネはニシシと笑った後でミナトさんの腕を掴みドンッ!と言った。
「夏は短し!着せよ水着!」
……へ?
俺が呆気にとられているとズイッと建物へ足を踏み入れるアカネ。
そして、うふふ、と笑ってはいるが腕を掴まれズンズンと引き摺られていくミナトさん。
「水着……?」
わざわざ買いに来ずとも家にあるやつでいいんじゃないか?と思いつつ、ここまで来たらついていくしかない。
※
水着売り場に着くとパァッと目を輝かせミナトさんを引き摺り込むアカネ、色とりどり様々な女性用水着が陳列されていた。
「ねえアキラ!どれが似合う?」
どれが似合う?と聞きつつも次々と違う水着を手に取るアカネ。
まともに聞こうとしていないだろ。
「アキラさーん!私はこういうのが好きなんですけど……」
そういうミナトさんが手にしていたのは谷間部分がぱっくりとあらわになるような、とてもじゃないが女子高校生が着ていい代物ではなかった。
ミナトさんのような美人がこんな水着を着るのか……?
まあ、ギャップを演出できて悪くはない、が、ダメだろう。
ここは止めるべきだ。
掌を突き出して
「まだ早いと思うぞ、そういうタイプは」
と真面目に言うと、
「あらあら、冗談くらい私だって言いますよ?」
とクスッと肩を振るわせた。
んー、なんだかアカネと同じような匂いを感じるんだが……
「アーキラ!あなたもなにか選んでよ!」
背後からアカネの声、振り向くと両手には水着。
なんだか嫌な予感がする。
「いいよ、俺には学校の水着あるし。わざわざ……」
すると、アカネはみるみる機嫌がななめになり、ムスーッとして
「もー!すぐそういうこと言う!」
とプンスカしている、頬を膨らませて。
表情豊かでこういうアカネもかわ……
「アキラさん、せっかくですし見るくらいは、ね?」
と、この状況を見て居た堪れなくなったのか俺をそっと諭すミナトさん。
はあ、まあ、しょうがない。
「わーかったよ、見るだけだぞ」
俺の言葉を聞いたアカネは機嫌を取り戻したようで、じゃあレッツゴー!と俺の腕を引っ張っていく。
なんだ、お目当ての水着をもう見繕ったのか?
おいおい、とちょっと恥ずかしそうにする俺の横で、これと!これと!これに……これもいいなあ〜とブツクサ言いながら吟味している。
「あら可愛い、どれも似合いそう」
と、俺とアカネの後ろから顔をひょいと出すミナトさん。
「それなら私も……アキラさん、こういうのはどうです?」
ミナトさんが持っていたのは
「……俺がさっき買うのを止めた水着じゃん」
そんな呆れた俺を見ると、あら〜バレました〜?うふふ、と笑いルンルンで元の場所へ戻しにいくミナトさん。
あの人も楽しんでやがるな。
「ねえ、アキラ」
「ん?なんだよ」
目をやると、神妙な面持ちで水着を抱えるアカネ。
なにかあったのだろうか?
さっきまであんなにはしゃいでいたのに、急にどうしたんだ?
「本当は嫌だったり、する?」
そう言ってちょっと強引に連れて来ちゃったし……と下を向く。
あー、そっか。
こういうところ妙に気にするんだった。
ったく、気が遣えるんだか遣えないんだか。
「……嫌だったら来てねえよ」
アカネの頭にポンっと手をやる。
「じゃあ、さ。やっぱり水着……買おうよ」
はあ、と思わず自分の頭をくしゃっとしてしまう。
ここまで言われたらもう逆らえない、な。
「分かったよ」
俺の言葉にやった!と、明るくなったアカネ。
すると
「アキラだってその、かっこいいっていうか、てか可愛いし、私はアキラとこういうのも一緒に楽しみたいっていうか……」
何やら自分で言いながら自分で照れているようで、水着を探す目線を忙しくさせている。
そんなアカネを見て俺もちょっと考える。
「なあ、アカネ」
「ん?なに?」
「俺がアカネの水着を選んでもいいのか?」
なっ……!とこちらを見て言葉を失ったアカネは顔を少し紅く染めた。
うん、やっぱかわ……
「ダメ!アキラはほら、普段こういうの買わないから私が選んでいるだけで!私のはいいの!」
と、紅く染めた顔そのままにもう!これでいいでしょ!と選んだ水着を渡してくる。
「あらあら〜青春、ってこういうことなんですね」
といつの間にか戻っていたミナトさんの声。
「アキラさん、その水着、色といいタイプといい、すごく可愛いですよ、きっと似合います」
両手を静かに合わせてうん、うん、と頷いている。
あまり柄ではない、が、照れながらも少し嬉しそうなアカネを見るとたまにはいいか、という気にもなる。
「ありがとな、アカネ。これ買うわ」
その時、うん!と強く頷きながら見せたアカネの笑顔は、天真爛漫そのものでずっと頭から離れることはないだろう。
トクンッとした鼓動が、心地よかった。
※
買い物したり、お茶しながら喋ったり、そうしていると過ぎる時間はあっという間だった。
久し振りに心から落ち着いて楽しめたかもしれない。
心なしかアカネもミナトさんがいたからか、いつもより楽しそうだ。
「さて、そろそろ帰るぞ」
アカネに声をかけるとそうね、とポツリ。
やっぱ寂しいんだろうな。
あの事件の後だ、俺に声をかけたのもアカネなりに気を遣ってのことだったんだろう。
「また今度みんなで遊ぼうな」
そう声をかける。
「うん、じゃあ、次は海に行きたい」
「う……み?」
はっ!なんてこった、この水着は伏線だったか。
アカネの提案に、あらぁ!いいですね!と楽しそうなミナトさん。
ニヤッ!と笑い、水着買ったんだから当然でしょ!バシンと俺の肩を叩くアカネ。
そうして駅の改札をルンルンで通っていく。
「アカネさん、いつも心配していたんですよ」
ズンズン進むアカネを見ながら、ミナトさんが話しかけてきた。
「……終わった後いつも不安そうに声をかけてくるから……アカネの気持ちは知ってる」
「だから、じゃないでしょうか」
「ん?」
なにが、と続ける俺の顔をジッと見つめるミナトさん。
「アキラさんにずっと守ってばかりなのに自分は何もできていない……そういう苦しさみたいなのが彼女の中にはあるんじゃないでしょうか」
そう、なのだろうか。
俺はアカネの護衛用アンドロイドだから守ったり戦ったりするのは俺の役目で当然だ。
いまいちピンと来ていない俺の様子を見て、やれやれといった表情で言葉を続ける。
「待ち人っていうのは辛いものなんですよ。アキラさん、アカネさんが泣くようなことだけはしないであげてくださいね」
それはもちろんだ、という意味で強く頷いてみせると、ミナトさんはさらに唇をスラスラと動かす。
「アカネさんがあなたのことをとても大切に思っているのは分かるでしょう、それにご本人が気付いているかは分かりませんが……」
あら、これ以上は野暮というものね、とハッとして口に手を当てると、うふっと俺に笑いかけた。
「とにかく、あなたはアカネさんにとって特別な存在。それを心にちゃんと持っておくことです」
そう言ってからミナトさんはタッと駆け出し、アカネの後を追い始めた。
ーーこの時、俺の胸をくすぐったのは淡く青い香り。
「面白かった!」
「次話以降も読みたい!」
「今後どうなっていくの?」
と思ったら
下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援をお願いいたします。
面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!
⭐︎1〜5の中で皆様の評価をいただけたらとてもありがたいです!
ブックマークもいただけると本当にうれしいです!
何卒よろしくお願いいたします!




