第八話〜学校事変③つぎの日。〜
抱きしめたアカネは小刻みに全身を震わせている。
「怖かった!」
「うん」
「ずっと心配だった!」
「うん」
「……もう会えないんじゃないかって」
「うん」
「……怪我は?」
「ないよ」
俺の胸に顔を埋めるアカネ、声も震えている。
俺が守らなきゃいけないのに、ずっと1人で戦っていたんだな。
「ごめんな、アカネ」
頭をポンと撫でると、胸に埋めた顔をぐりぐりとして、もうっ!と小さく呟いた後でまた沈黙。
「でもダメじゃないか、勝手に出てきちゃ」
そう言うとアカネは俺の胸から顔を覗かせた。
ひっくとしながらも、え?というような表情を浮かべている。
「だって聞こえたんだもん」
「なにが?」
「校庭に来いって……アキラが呼ぶ声」
どういうことだ?シェルターに俺は一度も近づいてはいないし、叫んでもいない。
それにいくら叫んだところでシェルターへ届くはずもない。
危機的な状況に置かれ、かなりのストレスがかかっていたんだろう。
幻聴……なのだろうか?
いずれにせよ、アカネをこんな目に遭わせた奴らを俺は絶対に許さない。
ーーだが、今はアカネの身の安全を優先するべきだ。
「なあ、アカネ。ここも危険かもしれない、シェルターに戻ろう」
「……うん……そうだよね、分かった、戻ろっか」
実際に俺を見て安心したのか、潜めた声で同意してくれた。
だが他にも気になることはあった。
アカネは保健室の先生、奴、と一緒に行動していたはずだ。
奴の正体を知っているのか?
アカネも先ほどの光景を見ていたはずだ。
奴と対峙している俺の姿、そして銃を構える兵士の姿を。
「アカ……」
声をかけようと隣を歩くアカネに顔を向けた時だった。
左手に感じた柔らかい温もり。
「……繋いだっていいでしょ、こんな時くらい」
足元に目線を沈めながらボソッと言葉を落とすアカネ。
まるでそのまま地面へ吸い込まれそうな、儚い声色。
ーー今ここで聞くよりも、落ち着いてからの方がいいか。
「……ああ」
色々あったけどアカネとのこの時間はずっと続いてほしいな、とそんなことを思ってみたりもする。
「……また心配かけたから3つね」
ポツリと呟くアカネ。
「へ?」
「アイス!3つ!」
そう言うアカネの顔は、ほころんでいた。
※
シェルターに戻るとそこにいたのは数名の先生と
「アカネさん!アキラさん!」
「えっ?!ミナトさん?どうして」
声をかけて駆け寄ってきたのはクラスメイトの姿。
生徒は全員帰宅したんじゃ?
「カエデは忘れ物を取りに戻ってきたみたいなの」
と、驚いた俺を見てアカネが説明してくれたのだが、俺を目の前にしたミナトさんは途端に顔がじわじわと青ざめた。
「ぎゃぁ!血!血!血がぁ!」
普段は物静かで百合の花のように周りを穏やかにさせる、そんな雰囲気を纏っているミナトさんが口に手をやりわなわなと震え始める。
冷静でいられないのは無理もない、俺だって血を浴びたのは初めてだ。
「まあ、戦ってきたからな、すまん」
俺の言葉にまたギョッとしたミナトさんだが、落ち着いている俺を見てそれもそうね、と胸に手をやりスゥーッと一呼吸。
閉じた目をゆっくり開けるといつものミナトさんの雰囲気が漂う。
どうやら落ち着いたようだ。
「でもびっくりしたわ……いつもは血なんかついてないから……ごめんなさいね」
いえいえ構いませんよ、と努めてクールに振る舞う。
「シェルターは大丈夫だった?」
ミナトさんとアカネに一応確認したが特に問題は起きていないそうだ。
そうだ、と思い出しアカネの方に顔を向ける。
「なあ、アカネ。保健室の先生なんだが……何かされたりしなかった?」
「……保健室の、先生?」
アカネは不思議そうな顔をしている。
まるで何を言っているのかわからない、というような反応だ。
ストレスで記憶が抜け落ちたのか?
「いや、シェルターへ一緒に行ってたろ?」
「え?アキラが連れていってくれたんじゃん」
と怪訝な顔をするアカネ。
なんだ、どういうことだ。
あの時確かにアカネを迎えに来て一緒にシェルターへ行ったのは、奴だ。
それに俺は一緒には行っていない。
記憶の混濁、欠落、それに先ほど言っていた幻聴。
ストレスの負荷がそれだけ大きかったのだろうか。
「ねえ、アキラさん」
困惑し考え込む俺に声をかけたのはアカネではなく、ミナトさんだった。
そのミナトさんもこちらへ怪訝な顔を向けている。
「……保健室の先生って、誰?」
※
'''学校事変'''と呼ばれた一連の出来事はその日の夜には大きなニュースとなり、総理大臣が官邸で緊急声明を出すまでに至った。
皇国軍属、皇国軍防衛小隊員で死者18名。
また、行方不明者、1名。
皇国軍属教師は全滅だった。
学校事変の影響で夏季カリキュラムという忌まわしき自主学習は中止となり、俺はこうして部屋でゴロゴロと天井を見つめ夏休みを謳歌している。
「あのシミとシミを繋げると……顔みたいだ」
しかし学校事変以降、3日は経ったが一度も敵襲はなくかなり落ち着いている。
全国で毎日頻発していたゲートの出現がピタリと止んだのだ。
そのためか事件直後にピリッとしていた空気も段々と緩んでいるのを感じる。
暇だ、暇でしかない。
だがこの暇がーー。
「……平和、ってことだもんなあ」
天井に伸ばした手をぎゅっと握りしめた。
あの日目の前で散った兵士や教師、そして隊長。
ーー俺が奪った命。
「最期に彼は何を言おうとーー」
「アキラ!」
「うおっ?!」
物思いに耽っている最中、部屋に突如乱入してきたのはアカネだ、こうして俺の平和はあっけなく崩れ去る。
「ノックぐらいしろよ……で、何の用?」
ベッドから身を起こしてアカネの方を見やる。
目を細めて仁王立ちしているアカネ。
とてもご機嫌そうだ。
「ねえ、せっかくの夏休みなんだし出かけようよ!」
「……俺はいいけどアカネは大丈夫なんかよ」
「大丈夫!なんともない!」
満面の笑みを浮かべながらグッと親指を突き出すアカネ、まあこの様子なら大丈夫か。
「そっか、ならいいけど……で、行きたい場所は?」
俺の問いにニマァッとするアカネ、なんだ、何か企んでいるぞ。
それに、こいつのこういう顔は大体ろくなことを考えていない。
「そうね、まずはみんなでマルキューにいこう!」
「マルキュー?なんでまた……ってみんな?他に誰か誘ってんのか?」
「うん!誘ったよー!」
ニカッと笑い、嬉しそうにはしゃぐ子供のような声。
……まあこうやって明るく俺を連れ出してくれるのもアカネだ。
「どうも、お邪魔してます」
そんな問答が落ち着いたのを見計らってか、透き通るような声と共に廊下の影からひょいっと姿を現したのは
「ミ、ミナトさん?」
まるでシルクのように靡く黒髪は腰まで乱れなく伸びていて、スッキリとした目鼻立ちにスラッとした脚。
白いワンピースがその可憐さを際立たせていた。
同じクラスだがあまり話したことがないので彼女のことはよく知らない。
だが、改めて見て分かることがある。
ーー美人だ。
「へえ、アキラさんってアカネさんと一緒に住んでいるのね」
まあ護衛用アンドロイドだからな、と返すと
「まあ!本当に仲がいいのね、羨ましい」
と口元を手で隠しながらクスりと笑う。
「アカネがすまないね、急な話だったと思うけど」
「いえ、私もちょうど暇していたから大丈夫よ、気にしないで」
そう言ったところで主犯に問う。
「そういえば何が目的なんだ」
「なにって、マルキュー行くんだから買い物でしょ」
「ん?何か欲しいものでもあるのか?」
またもや不気味な笑みを浮かべている。
「それはぁ、行ってからのお楽しみってことで」
はあ?なんだそりゃ。
頭をくしゃっとしながらミナトさんを見ると、ミナトさんもなにやらニヤニヤとしている。
美人が台無しな笑みだ。
そしてここにはどうやら……俺の味方はいない。
「ほら!ささっとベッドから立つ!」
「……さいですか」
アカネ様の命令にはハハッと大人しく笑う他、なかった。
「面白かった!」
「次話以降も読みたい!」
「今後どうなっていくの?」
と思ったら
下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援をお願いいたします。
面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!
⭐︎1〜5の中で皆様の評価をいただけたらとてもありがたいです!
ブックマークもいただけると本当にうれしいです!
何卒よろしくお願いいたします!




