第七話〜学校事変②対峙〜
肩を上下に揺らし、息を整える。
頬に感じる不快なぬめり気。
それを手で拭うと、視界が晴れような気がした。
先ほどの銃声を聞きつけた敵の増援がいつ来るか分からない、留めに倒れた敵兵の首へナイフを突き立てながら思考を始める。
「……人間、なんだな」
兵装は中世のヨーロッパ兵のような戦闘服で、胴に鎖帷子を装着していた。
槍兵4、弓兵1。
やはり近代兵器のようなものは見つからない。
見た目は10代、20代、か?
はっきりとした年齢は分からないが皆若い。
そして、こいつらだけで俺の仲間を殺したわけではないだろう。
部隊に命じられこの場に残された、と考えるのが妥当だ。
改めて確認すると、やはりやられていたのは全員皇国軍属の教師達だった。
非戦闘員は、いない。
被害人数は10名、職員室の状況を踏まえた人数を考えればほぼ全滅と言っていい。
と、なると敵部隊の向かった先はーー。
「……シェルター」
敵に虐殺される非戦闘員、血に染まるシェルターを逃げ惑うアカネ。
思い浮かべただけでズンッと錘が心に沈むようだ。
行かなきゃ。
血溜まりの連絡通路を進み、道を塞ぐ固く重い鉄製の扉の前に立つ。
持ち手に手をかけると熱くなった手が一気に冷えるような冷たさを帯びていた。
ふんっといきみ、両手を使って手前に引き寄せる。
すると静かに、重く、道が開けた。
「全て終わったらみんなで迎えに来るから」
無言で転がる仲間達へ一言添えて、薄暗く湿り気が支配する、気味の悪さに呑み込まれそうな通路へ足を踏み入れた。
扉をこちら側へ引き戻し閉めた時、敵兵の骸と目が合った。
ニマァッと不気味な笑みを浮かべているようで思わず顔を背ける。
お前らが始めたんじゃないか。
※
しーんとしたこの通路は一本道で、100mほど進んだ突き当たりが階段だ。
できるだけ音を立てぬよう進みながら弾倉を替える。
【味方識別信号はどうだ】
'''周囲に味方識別信号は確認できません'''
もしどこかに教師がいれば協力するべきだが、その望みはない。
シェルターは無事だろうか?
アカネは、アカネだけはこの身に代えても。
焦りと不安に駆られながら歩みを進めていると
ーーカツ、カツ、カツ。
前方からリズム良く響く足音。
前から来たということはつまりーー。
ゴクンッと唾を飲み込む。
生き残りか、敵か。
銃を構え、目をよくよく凝らす。
……前髪からポツンと汗が滴り落ちた時、はっきりと姿が見えた。
人間はこういう時、こう言うんだったな。
「ああ……神よ」
※
「あら〜まだこんなところにいたのね」
視界にはっきりと浮かんだその人はーー
「せ……先生……」
「んふ、ちょっと遅かったんじゃなぁい?」
艶かしい声色に凛としながらもキリッとした目、紛れもない……保健室の先生、その人だった。
だが、格好は先ほどの白衣ではない。
ボディラインがはっきりと見えるような刺激的な服に、マントを羽織っていた。
つまりこの世界では通常着用しないような、'''異服'''。
混乱する頭を必死に落ち着ける。
落ち着け、やることをやるんだ。
「敵か、味方か」
冷たく、しかし威圧も込めて、問う。
そうねぇ〜と人差し指を唇に当てながら、目尻を下げ薄く笑みを浮かべる。
「敵、かしらね」
なんで、と俺が小さく呟くと先生、いや、奴はきょとんとした。
「その問いにはどういう意味が含まれているのかしら?なんで裏切ったの?という問いならばそれは違うわね」
んー、あまり時間がないのだけれど、と言って続ける。
「裏切りではないわ、初めから敵だったの」
そう言った奴は左手の中指と親指でパチンッと音を鳴らした。
すると、奴の背後から人影がぬっと姿を現す。
「……なっ」
自分自身で瞳孔がぐわっと開くのがわかる。
「なんで……」
動揺する俺を見て驚いた?と柔らかくも冷たい奴の声が鼓膜を包む。
そこにいたのは、あの職員室で出会った
「シ…シンバシ…さん…」
正気のない顔でこちらへ向けて銃を構えている。
「シンバシさん!あなた、あなたも!」
あははっ!と甲高い笑い声のあとで、
「違うわよ、この子はね、私の駒なの」
「へ……?駒……?」
「そう、駒。もう意識はないわ」
なんだ、何を言っている。
状況を飲み込もうとしても理解及ばず咀嚼できない様を見てとったのか、奴はそのまま言葉を続けた。
「最後の授業ね、特別に教えてあげる。あなた達が言うサイコキネシス?まあ、私達で言う魔術、なんだけど私は傀儡の魔術使いなのよ。それでたまたま見かけたこの人に魔術をかけて操っているってわけ」
……は?そ、そんなことが。
「でね、人間みたいな見た目してるけどサキュバスなの、私」
「さ、さきゅ……さきゅばす?」
怪訝な顔をしていたのか、私を見てふふっと笑い声を漏らす。
「……年頃の子に言うことじゃないわね、骨抜きにして命をとっちゃうの。痛くないわよ?むしろ、気持ちいいんだから」
なんだ、何を言っているのかさっぱ……。
ここで思い至る、確かこいつあの時!
「おいっ!アカネ!アカネはどうした!」
シェルターへ避難する時こいつはアカネと一緒だった!
すると奴は、あら〜本当に大切な人なのね、と胸に手を当てニヤリとした。
「私、女性には興味ないの、安心して?非戦闘員のみんなも無事よ、シェルターにいるわ。この言葉は先生として最後の言葉だから信じて?それに……今回の目的は侵攻じゃなくて実験だから」
言葉を鵜呑みにすることはできない、一刻も早く無事を確認したい。
が、今下手に動けば俺もああなるかもしれない。
シンバシさん……だったモノに目をやり固唾を飲む。
今やれること…やれることはできるだけ情報を得ることだ。
整理して問答している時間も余裕はない。
「……実験ってなんだ」
あら、察しが悪いのね、と目をぱちくりさせる。
「校庭上空に出現させた魔法陣……通称ゲートだけど、あそこにはこちらの世界でいう電波を遮断するために通常の防御魔法を発展させて、そうね、ジャミング魔法と転移魔法を組み込んでみたの!
やったのは私じゃないけど考えたのは私!凄いでしょ?」
ふぅーと一息ついた後で、さらに得意げに続ける。
「いつもは魔導師ちゃん達……ああ、'''後方防御部隊'''だったわね、が、魔法で行うんだけどよわっちすぎるし範囲も狭いし、そもそも自分達と帝国軍の部隊しか守らないからあんまり効果がないのよ」
言葉を浮かべながら唇をとんがらせ視線を上にやり、はあ〜とため息を一息。
「そ!れ!に!あなた達アンドロイドがその魔導師ちゃん達を真っ先にぶっ潰しちゃうでしょ?対サイコキネシス弾で」
ーーなっ!そこまで知っていたのか。
通常兵器では防御を打ち破れず、攻撃が無効化されてしまう。
そのため大東皇国の技術を結集してできたのが対サイコキネシス弾だ。
今、敵魔導師部隊の防御魔法を打ち破る術はこの対サイコキネシス弾しかない。
さらに長期化する戦争の中人的被害を抑えつつ敵防御部隊の殲滅を遂行するために戦闘用アンドロイドが作られた。ーーこいつ、どこまで知っているんだ?
「いいように使われてあなた達も可哀想ね、同情しちゃう」
そう言った後で奴はこちらへ両手を挙げながら歩みを進める。
カタカタと構える銃の手が震えて止まらない。
俺の目の前まで来ると静かに笑みを浮かべてそっと耳元へ口を近づけてきた。
「だから、今回は大きな実験なの、その子でも遊べたし。いきなり撃たれてびっくりしたでしょ?」
ーーまさか。
「……お前!」
わなわなと震え全身を貫く怒り、噛み締めた唇が裂けそうだ。
「んふ、そうそう、私からのサプライズプレゼント」
いたずらっぽく微笑む奴に、ガシャッと銃を突きつける。
「ぶっ殺してやる!!!」
「できるかしら?」
彼女が首だけを後方へ傾けた時だった。
タッタッタッとこちらへ走る足音。
「あの子の前で引き金、引ける?」
「アキラ!!!」
こだましたのは聞き慣れた声。
こちらへ向き直した奴の顔は寂しげで、どこか同情しているような声で語りかけられた。
「……ねぇ、私も大切な人の前で女の子をヤるのは気分が良くないの。ここまでにしておいてあげる……それに、二度も失うのは辛いもの」
そう言うと、今度は視線だけ後ろへ向ける。
二度も失う……?誰が、何を?
「はあーあ、アンドロイドなんかに情を抱くなんて私もあなたから悪影響を受けちゃったかしら。見逃してあげるのは今回だけよ、まだ、先生、だから」
そう言ってウインクをすると、俺が問いかける間もなく奴は立ち尽くす俺をかわしその場を去っていった。
まだ聞きたいこと、気になることはたくさんある、だが今は奴を追いかけるよりもーー!
「アカネ!!!」
こちらに向かって走るアカネを、すぐに抱きしめたかった。
「面白かった!」
「次話以降も読みたい!」
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