第六話〜学校事変〜
胸にほとばしる焦燥が、頭を支配する恐怖が、'''戦争'''がどういうものかを自分の身に刻み込む。
今までは敵攻撃部隊をシールドのような、言い換えれば「魔法」のようなもので防御する敵防御部隊を隊長の指示で自動攻撃システムによって一方的に'''排除'''していればよかった。
それが、俺にとっての'''戦争'''であり、'''日常'''だった。
だが、今さっき起きた状況はなんだ?
敵防御部隊もおらず、攻撃すべき敵兵も見えなかった。
何が起きているんだ、それにーー。
「くっ…」
隊長が、教師達が、そして兵士が、死んだ。
俺の目の前で。
なにもできず、一方的に蹂躙された。
なんのために死んだのか。
敵へ勇敢に向かっていったわけでもない、ただそこに居た、それだけで死んだのだ。
声にならない感情が胃から逆流してきそうで、思わず噛み締めた唇からは鉄の味がする。
職員室を飛び出した俺は敵前逃亡だろうか?
だが今の俺に、そこまで考えている冷静さも余裕も、なかった。
アカネ……!アカネ!頼む!無事でいてくれ!
その思いに突き動かされたようにシェルターへ駆けている。
それともうひとつ。
学校内に俺以外の戦闘生徒はいない、武装しているのは皇国軍属の教師だけだ。
その教師がいるのは職員室、そしてシェルター。
もし敵がこちらの情報を把握し武装勢力殲滅へ動いていたとしたら?
狙いが職員室とシェルターに絞られる。
推測に過ぎない、だが、最悪の想定で行動すべきだ。
ただ、そんなことよりも俺はただアカネを護りたい、その感情だけが頭を染めていた。
この気持ちも、この行動も、全てプログラムってやつなのか?
暗く沈んだ校舎内の連絡通路を駆け、シェルターへ向かうための非常階段を降りている時だった。
「……ぅぐ……」
すぐ下の階段踊り場から微かな呻き声が聞こえた。
まさか!
声の方を見やると人が倒れている。
「おい!なにがあった!」
声をかけて近づくと全身の血が一気に冷え込む感覚に囚われた。
その手には銃、学校内で銃を持てるのは戦闘用アンドロイドと皇国軍属の教師だけだ。
それだけで状況を理解するのには十分だった。
「……はぁ……ふぅ……戦闘……生徒、か」
駆け寄り抱き起こした彼は口から血を流し、荒い呼吸で必死に生きようとしている。
見たところ胸部と腹部に傷を負っており、出血量からしてもう長くはもたないだろう。
「はい!ゲンドウアキラと言います、大丈夫ですか!」
「……し……シェルターが」
ドクンッと重い鼓動が響く。
この先の言葉は聞かずともわかった。
「て……敵に……襲われて……」
そこまで言うと一言、頼む、と発して腕の中で彼の力が抜けた。
この人は最後まで戦い、散った。
顔に手をやり、瞼を閉じてやる。
隊長も、この教師も、なんで、なんで。
「……俺に任せた、ってかよ」
安心したような顔で逝くんだ。
俺はスッと立ち上がり、ズボンの裾で手に染みた血を拭う。
やっぱあいつらーー。
胸に落ちた黒い雫は、湖面のように広がり感情が落ちるたび水面を揺らす。
「生きて返さねえ」
※
頼む、頼む!頼む頼む頼む!
俺は祈る。
誰に?この地獄を演出した敵に対してか?
それとも人間が言う神様、ってやつにか?
何も分からねえ、だが今はひたすらに頼む、この2文字しか浮かばなかった。
この非常階段を降り切った先にシェルター連絡通路があり、その先の固く閉ざされた扉の向こうにまた階段がある。
そこを降りたらシェルターだ。
あと少し。
だが、敵がどこにいるか分からない、はやる気持ちを抑えつけて慎重に、静かに進む。
はあ、はあ、と肩を揺らしたいのを押し殺し、静かに短く呼吸をしながら、ちょうど階段を降り切った時だった。
「ーーーー」
微かに話し声が聞こえた、何を話しているのかは分からない。
しかし妙に血生臭いな、俺の匂いか?
アカネと会う前にシャワー浴びてえな、そんなことも考えながらその場で立ち止まり、壁に身を潜め耳を凝らす。
鼓動が早くなっていくのを抑えきれず、その場に反響してしまうのではないかと思うほどの鼓動音が全身を駆ける。
そいつらが話していたのは。
ーー大東皇国の言語ではなかった。
大丈夫、静かに、ふぅっと息を吐いて落ち着かせる。
やるべきことを、やる。
【おい、あいつらの言語を翻訳できるか】
脳内でシステムに問いかけた。
'''解析します。解析不可、この世界で使用されている言語には当てはまりません。パターン解析完了、敵性言語の音紋と一致しました'''
クソッ、やはりか。
【自動攻撃システムは起動できるか】
一応確認してみる、が。
'''通信エラー。マニュアルモードを維持します'''
ダメ、か。
敵攻撃部隊だとしたら今のところ相手が用いる武器は槍、弓、剣、といったもので近代兵器のようなものは確認されていない。
さらにサイコキネシス攻撃……魔法、のような力で遠距離にダメージを与える攻撃も確認されているが限定的だ。
だが、職員室では銃と思われる武器で襲撃を受けた。
ーー考えても無駄か、敵がどうであれ腹括って行くしかない。
話し声からして敵は数名、やれる。
後方から敵が来る気配もない。
なに、攻撃されても痛いだけで死にはしないんだ。
そうやって意気込むも、携行銃を持つ手の震えは止まりそうになかった。
ここまで来る途中で倒れていた教師は1人、他の教師は恐らく非戦闘員やアカネと一緒にシェルターへ立て籠っているのだろう。
アカネ達と合流後、シェルター避難通路から校舎外へ脱出。
震える手を宥めるように避難訓練でやってきたことを思い出し、気持ちを落ち着ける。
よしっ、アカネが待っている!いくぞ!
ふぅっと息を吐き、意を決して壁からバッと飛び出した。
……は?
刹那、眼前に広がった光景。
血を流した人が重なり倒れ、通路が血溜まりになっている。
倒れている人には矢がいくつも刺さっており、針の筵のようだった。
そして談笑しながら倒れている人に剣を突き立てている、奴ら。
瞬間に思考を切り替え現状把握、敵戦闘員5名。
飛び出した俺に奴らが気が付き、何やら声を上げようとした。
正しい見出し。
ーードンッ!
正しい引きつけ。
ーードンッ!
正しい射撃。
ーードンッ!
ーードンッ!
倒れた仲間を見て腰を抜かし、その場にへたり込む敵1名。
「……突撃、前へっ!」
腰ベルトからアーミーナイフを取り出し銃を構えながら駆けて前進。
銃撃で痺れる腕を伸ばし、漂う硝煙の匂いを振り切り、血のぬかるみを越えて、敵の眼前へ迫る。
なんなんだ、なんなんだてめぇらっ!
「ーー……」
近づいた瞬間、奴は両手を挙げ何か言葉を言わんとしていたがそのままバターを切るように喉元を裂いた。
ぐふっと口から呻きを漏らした後、ドサりと転げ、動かない。
命乞いでもしようとしたのか?
「……この国に来たんならこっちの言葉で喋れ、何言ってんのかわかんねえから」
そうして視線を落とした敵は、もう何も答えなかった。
「面白かった!」
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