第十六話〜アキラ〜
「……アキラッ!カエデちゃんッ!」
遠ざかる2人に伸ばした手が再び触れることはなかった。
混乱が渦巻くこの状況でアキラやカエデちゃんとすぐに合流するのは難しい、私はすぐにそう思った。
逃げろ!という声と悲鳴、私もそれに押されるように走る。
どこへ向かっているのかも分からない、でも今は逃げなくちゃ!
私は無力だ。
私自身は戦えるわけでも、何かを守ったりしているわけではない。
ただ逃げて、無事に帰るのを祈ることしかできない。
それでも……!
「……アキラ!」
今度はしっかり手繋げって怒ってやるんだから!
※
もはやシェルターへの誘導などはなく、みんなが各々散って逃げている有様だった。
しばらく走り続け、さすがに息が切れる。
でも私がこんなところで止まるわけには。
「……よしっ!」
頬を叩いて気合いを入れる。
アキラは私のために、今あそこにいる人達のためにきっと戦っている。
逃げることしかできないのなら。
祈ることしかできないのなら。
「……せめて、逃げて、祈れよ、私!」
背後から迫る喧騒が私の足を駆けさせる。
すると標識が見えた。
〈地区シェルターまで1km 総合運動公園まで500m〉
という文字と共に方向を示す矢印。
あと、少し!
「アカネさん!!!」
自分の名前を呼ぶ声が聞こえた。
「カエデちゃん!!!」
声がした方を向くとこちらへ走っているカエデちゃんが見えた。
よかった、無事、だったんだ。
すぐに駆け寄ってお互いの無事を喜んだ。
が、息を切らして汗をかいて、私の肩に手をやったまま下を向いている。
ずっと走り続けていたのだろう、中々呼吸が整わないようだ。
「ねえ、大丈夫?」
「……大丈夫。ごめん、なさい……ありがとう……ございます」
顔を上げたカエデちゃんは凄く辛そうだ。
しかし、まだ混乱はおさまっていない。
みんなシェルターへ向かって走っている。
「もう少しだから!いこう!がんばろ!」
私はカエデちゃんの返事を待たぬまま、手を引いた。
薄暗く先が見えない道の中を、ただ夢中に走る。
「ぎゃぁッ!」
遠く感じていた悲鳴が段々近くなってきた、このままじゃ追いつかれる。
「カエデちゃん、提案があるの」
「……どうしたの?」
夜の闇の中に消えてしまいそうなほど、か細く不安そうな声。
私は唾を飲み込む、本当にいいのだろうか。
上手くいけばやり過ごせるけれど、もし上手くいかなければ2人とも……。
「この先に総合運動公園があるの。そこにはどこか隠れる場所があるはず、このままじゃシェルターまでに追いつかれる」
「え?え?シェルターにはいかないってことですか?」
戸惑いの声、当たり前だ。
だが、そのシェルターだって私達はどこにあるのか、確かな情報もないままに走っている。
「もし上手くいかなきゃその時は、私がどうにかするから!その隙に逃げて!」
カエデちゃんは私が絶対に守らなきゃ。
「ダメ!ダメよ!私も一緒!」
私に手を引かれ走るカエデちゃんから力強い一言。
今はカエデちゃんのために、こう言うしかない。
「……分かった。絶対に2人で生きて、アキラと会おう!」
「当たり前です!」
固く、決意を込めたようなカエデちゃんの声。
1人よりもよっぽど心強い。
総合運動公園はもうすぐそこだ。
事務所みたいな建物があるはず。
屋内に立て籠ってやり過ごす、そうしている内に軍が来て鎮圧するはず!
角を曲がり、入り口が見えた、その時。
「ーーーー!!!」
「ーー!!!」
聞き慣れない言葉を話す人が2人、いた。
剣と盾を持っている。
皇国軍人ではない。
あの、あの姿はーー。
「敵、だ」
くっ!踵を返そうとするも、既に敵が迫る音が聞こえていた。
「あ、アカネさん……」
カエデちゃんの声が震えている。
無理もない、私達は今
「……絶体絶命ってやつね」
その最中にいる。
「……ーーー!!!」
こちらに気が付いたのか、敵が向かってきた。
しかし、ゆっくりと。
まるで動かなくなった獲物を追い詰めているかのように。
そして、そんな自分らの立場を存分に味わい、愉悦に浸っているかのように。
街灯に照らされ見えた敵の顔は、鬼が笑っているようだった。
ーー殺されるだけでは済まないかもしれない。
「カエデちゃん!逃げて!早く!」
振り向くと、そんな……と怯えた表情で足がすくんでいるカエデちゃん。
「早く!逃げて!私が、私が!食い止める……まだシェルターに……間に合う……かも……だから……」
本当は嫌だ。
私だって逃げたい。
どんな目に遭うか考えるだけで怖い、助けてほしい。
でもカエデちゃんが酷い目に遭うのはもっと辛い。
どちらかが犠牲にならなきゃいけないとしたら、それは私でいい。
だけど私はヒーローなんかじゃない、縋りたい、アキラ、助けてよ……ああ、もう、会えないのかな。
「……アキラ」
最後に、一番大切な存在……いや、一番大切な人の名前が口から溢れた。
「久しぶりだね、アカネ」
2発の銃声とともに聞こえた、よく知っている声。
私が今、会いたいと願っていた人。
「アキラ!」
駆け寄ろうとする、と。
ドンッ、ドンッ、と地面に転がった敵の兵士へ銃弾を撃ち込むアキラ。
「ど、どうしたの?もう倒したん……でしょ?」
顔を上げ、こちらを見つめるアキラ。
やがて口角を吊り上げると
「とどめだよ、生きてたら困る」
さらに、もう1発ずつ。
こちらに顔を向けたまま表情を変えない、アキラ。
「もう、大丈夫……じゃない、かな」
私の言葉に何も答えない。
そして、ゆっくりと腕を上げ、こちらに向けたのは
「どういうこと?」
溢した笑みは、柔らかく、いつも見ている笑顔そのものだった。
でも、私の知っている笑顔とはまるでーー。
「あなた……本当に、アキラ?」
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