第十三話〜アカネの憂鬱〜
学校での戦闘、別れ、そして離島での接敵。
「……まったく高校生らしい夏休みを送らせてくれよ」
そうぼやきつつ、俺は自室で静かに漫画に目を通している。
離島では色々あったが、夏のひと時を堪能し帰宅した後もこんな平穏な日々が続いていた。
「……チャンプの新連載微妙だな」
ーーそろそろ、か。
しばらく夏の課題で大人しくしていたがもう限界だろう。
カレンダーに目をやり、時計を確認する。
時刻は午前11時、襲撃には頃合いだ。
「アキラーーー!!!」
勢いよく扉が開かれると、疲れ切った顔で突入してくるアカネ。
ほらきた。
夏の課題による精神的ダメージ、退屈によるストレス、それをありありとこのアカネ山噴火が物語っていた。
「なんでしょうか」
「夏は短し!」
「水着は着ないぞ」
間髪入れずにその先の言葉を遮る。
が、アカネはふふーん、とニヤケ顔だ。
なんだ、今度は何を企んでいる。
「着せよゆ・か・た!」
あ、その手があったか。
勝ち誇った笑みを浮かべて腕を組むアカネ。
夏を満喫する気は大皇国の誰よりも負けてはいまい。
「で、その浴衣とやらはーー」
はっとして、ちょっと待ってて!と俺の言葉を遮り部屋を出ていくアカネ。
毎度忙しいな。
じゃーん!と言いながら現れたアカネの手には、浴衣が2着。
「もう用意してあります!」
えへん、と得意げだが、いつの間に用意したんだこいつ。
「あ、ああ、そうか……。で、どこに行くんだ」
もういいか、アカネが楽しそうにしていればそれで。
着せ替え人形……いや、着せ替えアンドロイドになりますよっと。
「なんだ、やけにあっさりね」
と、拍子抜けするアカネだが、どこか嬉しそうだった。
「えーっとね、いや、どうかな……」
しばらく考えるようなそぶりをしたかと思えば
「着いてからのお楽しみぃ〜」
とニンマリ。
そんじゃアキラの浴衣はこっちね!と俺に半ば押し付けるように渡すと、部屋をさっていく。
と、廊下からひょっこり顔だけ出して
「14:00には家出るよ!準備しておいて!」
と言って消えた。
まあ、高校生らしい夏休み、といえばそうなるか……と、胸に残った浴衣を見て苦笑した。
「……ん?そういえばアカネ、なんで俺のサイズ知ってんだ?」
※
「アカネさーん!アキラさーん!」
駅前に着くと、ミナトさんの声がした。
辺りを見回すと、こちらに手を振っているミナトさん。
そんなミナトさんは紫陽花模様をしつらえた可愛らしくも清涼感のある浴衣姿で、うん、可愛い。
よく似合っている。
「アキラさーん!すっごい可愛いです!お似合いですよ!」
と目を輝かせるミナトさんの横で、胸を張るアカネ。
「……ああ、ありがとう。選んだのはこいつなんだけど……」
ああー、と苦笑するミナトさんだったがしかし、うふふっと口元を手で隠しながら
「本当に仲がいいんですね」
と柔らかい表情で俺とアカネを交互に見やる。
「仲がいいっていうか!幼馴染っていうか!だからなんでも知ってんの!」
急に早口だな、照れてんのか。
ふんっとそっぽを向くアカネを見てあらあらとまたクスりとするミナトさん。
「ミナトさんも浴衣似合ってるよ、凄く可愛い」
「そんな、照れちゃいますね、でもありがとうございます」
ん?なんだかポワッとした雰囲気だな、これはこれでここち……。ってぇ!
頭に衝撃、なんだよ、と犯人の方を見るとムスーッとしている。
「カエデちゃん、いこ!」
俺からプイッと顔を向けるとにこやかにミナトさんの手を引っ張って駅の方向へ足早に去っていく。
なんだこれ、通り魔かよ……あ。
ーーああ、そうか、そうだったな。
2人の後ろ姿が遠くならないうちに足を早める。
「アカネ」
追いつき並びかけると同時に声をかけた。
「……なに」
ご機嫌斜めだ、ちょっと声色に冷たさを感じる。
「浴衣、すげぇ似合ってるよ、可愛いね」
「……もう!遅い!」
とこちらを見てべーっと舌を出すと、もういいから!と、今度は1人で改札へ向かうアカネ。
「アキラさん、褒めてなかったんですか?」
「あー、まあ、言いそびれてたっていうか」
「私より先に声かけなきゃダメじゃないですか」
「え?」
ミナトさんの顔を見ると、信じられません、と言いたげな呆れ顔。
そういうことなの?
そういうことなんです!
と、ミナトさんもスタスタとアカネの後を追って、行ってしまった。
※
さて、拗ねたアカネをどうしようか、そんなことも考えながら電車に乗り、やがて目的地に着いた。
アカネはアカネでミナトさんと笑顔で話していたので楽しんではいるようだ、ホッとする。
駅のホームに降りると、なるほど浴衣姿の人が一気に増えた。
「……アキラ」
前を歩いていたアカネが気まずそうに振り向く。
その場に立ち止まり視線を下に落とすと俯いたまま、ん!と言って壁を指差した。
なんだ?と思い視線を向けると
「……花火大会」
ポツリと小さい声。
……着いてからのお楽しみ、だったな。
アカネの様子を窺うと、まだ俯いている。
だから……その……と、ポツポツ呟いてなにかを言いたそうにしていた。
多分あれだ、引っ込みがつかなくなってしまったんだろう。
「そうか、楽しみだな。ありがとう」
「……べ、別に」
ミナトさんは静かにこちらを見守っている。
助け舟を求めて視線をやるも、ジーッと眺めているだけ。
しかし中々混んでいる、まだ時間までしばらくあるというのに。
屋台はもう出ているのだろうか。
「……はぐれたら困る」
俺はもじもじとしていたアカネの手を取った。
紅くなった頬、ちょっぴり冷たい手。
「ちょ!大丈夫だから!大丈夫だって!」
そう言いながらもしっかり握り返して手を離さない。
「ズルいです!私も混ぜてください!」
「カエデちゃんは、こっちね!」
と、空いた手を差し出すアカネ。
あらあら……ありがとう、と笑みをこぼすミナトさん。
今日見る花火は、3人の中で散ることはない、そう思えた。
「面白かった!」
「次話以降も読みたい!」
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