第十二話〜フロンティア〜
……ここはどこだ?
頭の鈍い痛みで目が覚めた。
身体を起こし辺りを見回すも誰もいない。
ガランとした部屋でおよそ6畳ほど。
窓もなく、家具は俺が寝ているベッドだけ。
病院、ではないらしい。
自分の名前はーー源藤アキラだ。
それは間違いなく覚えている。
しかし、それ以外の記憶が思い浮かばない。
俺はどこから来て、どこにいるのか。
そして何をしている人なのか。
「誰か、どなたかいませんか?」
呼びかけてみるも返ってくる言葉はなく、自分の声が静寂に消えただけだった。
そのうち誰か来るだろうと思い再び身を沈める。
混乱はあるが何も分からないのだから考えても仕方がない。
何か思い出せるかもしれないと、そんな期待をしつつ目を瞑った。
※
「アキラ……!」
自分のことを呼ぶ女性の声、しかし呼んでいる人の顔はうっすらと影になっていてはっきりと分からない。
「ねえアキラ、この前のテストなんだけど……」
テスト……?なにやら試験の点数がどうのと話している。
学生、なのだろうか。
色々な断片的な会話が、次々と流れ始める。
恐らく俺のことをよく知っている人物、なのだろう。
夢、か?半ば意識が混濁したような状態でスッと目を開ける。
「あら、やっと起きたわね」
上半身を起こしながら声がした方を向くと、足の位置が少し沈んでいた。
腰掛けていたのは妙な色気を醸している女性の姿。
「あの、ここは……」
恐る恐る尋ねると、ゆっくりと口角を上げただけで何も言葉を発さない。
そうしてジッとただ俺を見つめている。
やがてうふっ、と軽く笑い声を漏らした後で彼女はゆっくりと口を開いた。
「何も知らなくていいの、今は、ね」
※
あれから俺はこの部屋で幾日も過ごした。
ストレスだろうか?空腹は全く感じない。
また、部屋から出ることは許されず何度か扉に手をかけたがすんとも動かなかった。
そして今日は彼女から尋問を受けている。
色々聞かれる中で何かの手掛かりになると思い、断片的に見た女の子の夢のことを話した。
だが彼女はそう、と呟くだけで何も答えてはくれない。
何も知らないのだろうか?
それとも興味がないのだろうか?
知っているのか、知らないのかも答えない。
……知りたい気持ちは強いが今はいいとしよう、ぐっと気持ちを堪える。
俺のことがダメならこの世界のことだ。
そう思ってこの世界のことについて尋ねると、すんなりと教えてくれた。
ヴァルシア大帝国という大きな国が率いる人間の国の連合組織と、魔王と呼ばれる存在が率いる魔族連合なる組織が覇権を争っており、俺が今いるのは魔族側の統治エリアとのことだ。
どうやら俺の生きている世界は色々と複雑なようで。
「……で、その戦争の状況はどうなんです?」
俺が引き続き話を聞き出そうと、問うた。
少し眉がぴくりと動き、顰めた顔をして
「和平よ」
と彼女。
つまり今は戦争が起きている状況ではない。
彼女ははあ、っとため息をつくとさらに物憂げな顔をしてぽつぽつと語り始める。
「あと少しでヴァルシア大帝国も倒せたのに、見つかっちゃったのよ」
何が、ですか?
俺の問いにまたひとつ、ため息。
「そうね、フロンティア、かしら」
フロン……ティア?
それがどこを指すのかは分からないが、話しを続けた彼女によるとそのフロンティアを発見したのはヴァルシア大帝国で、探索や侵攻を決定。
そこで得られた一部資源譲渡と技術、情報の共有を引き換えに魔族連合との間で和平と軍事協力が実現した、ということだった。
つまり、戦争していた両者はそれぞれの思惑から停戦し、対フロンティアで共同戦線を張っていると。
なんとも利己的だな、合理性の高さと切り替えの早さに少しばかり呆れてしまう。
彼女も同じような心持ちなのだろうか。
ーーとまあ、この世界のことはわかった、しかし俺のことは分からない。
そして、彼女のことも。
「先ほどと同じことを聞いて申し訳ありませんが、どうしても知りたいのです。俺はどこの誰であなたは誰なんですか?」
言葉にグッと力を込め、彼女の顔を見る。
すると観念したのか、ま、少しくらいならね、と彼女は小さく呟いた。
そうして少し楽しそうに表情を歪め口を開く。
「あなたはフロンティアから追放された戦闘用人型アンドロイド、つまり人のようで人ではないの、機械よ」
ああ!なるほど!そうなんですね、とはならない。
機械?なら俺のこの思考と自意識はどうなっているんだ?
んー、と、上手く呑み込めない。
様々な考えがぐるぐると巡り、さらに頭が混乱している。
黙り込んでしまった俺を見た彼女は、同情するような顔を浮かべると
「可哀想に、あなたはフロンティアのために戦っていたのに、ね。動けなくなったあなたは棄てられていたの」
「でね、私居た堪れなくなっちゃって……私が保護してこっちに連れて返ってきたのよ」
と俺の置かれた状況を部屋の静かさに溶け込むような声色で教えてくれた。
「そう……だったんですか」
何も覚えていないはずなのに、事実が重くのし掛かる。
ざわっと揺れる胸中、じんみりと鈍く痛むようだ。
「……それでね、私は魔族連合のフロンティア技術文化調査官のアメリアよ。見た目は人だけど種族はサキュバスね」
「さ……さきゅ……ばす?」
聞きなれない単語に頭が空っぽになる。
戸惑いが顔に出たのだろうか、そんな俺を見てあらあら、と手を口元にやってからグッとこちらに顔を近づけてきた。
「本当に綺麗な顔、人間みたい……」
微かに香る甘い匂い、それに乗せられた妖艶な声色に思わず、ちょっ待って、と恥ずかしい声が出てしまった。
ーー何を照れているんだ俺は。
「……可愛い。でも安心して、私女の子に興味ないから」
俺の唇にそっと人差し指を触れさせて、ゆっくり離れる。
「……ね、ドキドキしたでしょう?こうやって男の人に色仕掛けして最後にヤッちゃうの。それが私、サキュバスよ」
そうして彼女は長くなっちゃったわね、とベッドから立ち上がりドアノブへ手をかける。
一拍ほど間をあけると、背中を向けたまま
「これからあなたは自分を取り戻すのよ」
そう言って部屋を後にした。
ーーフロンティア、か。
覚えてもいない俺が元いた世界、そして彼女が残した自分を取り戻すという言葉。
俺はなにをすべきか、沸々と湧き出る思考が一粒の雫となって胸に落ち、染めていく。
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