第十話〜夏、海、再会。〜
鼓膜に響く、蝉の声。
コンクリートからの熱気がもわっと全身を包み、太陽の陽はジリジリと全身を焦がす。
陽炎揺れる先を走る2人の陰。
「おーい、アカネ、ミナトさん……ちょっと、ちょっと待って……」
疲れを感じないとはいえ暑苦しさからは逃れられない。
息を整えるため肩を上下にしながら立ち止まり膝に手をつく。
ここ穴場だよ!とアカネが自慢げに見つけてきたこの場所はーー。
「まさか離島、だなんて……」
車はめったに走っておらず、人の気配もない。
宿泊施設は数軒の民宿しかなく、コンビニはない。
それに何と言っても誰も免許がないのだから基本は歩き、まさに地獄。
船着場からかれこれ1時間は歩いている。
「アーキーラー!置いてくよー!」
こちらに叫びながら手を振るアカネ、そして、ミナトさん。
やれやれ、お前らの荷物は俺が持ったんだかん……なっ!と荷物を持ち上げる。
まあでも、平和ならいいか。
空を見上げると白い雲がゆったりと泳いでいた。
※
「すまんねえ、送迎の時間勘違いしとって」
宿に着くと、お婆さんが出迎えてくれた。
チェックインの時間を勘違いしていたらしく、畑に出ていたそうで。
どうりで電話が繋がらないわけだ。
「うわあ!ひろーい!」
部屋についたアカネがタタタッと駆け出し、ねえ!見て!とはしゃぎ回る。
畳の香りがどこか懐かしい。
お詫びに広い部屋をどうぞ、とのことだったが部活の合宿で使えそうな広さでこれは持て余しそうだ。
「アカネ、見てみろよ」
窓の方を見やり声をかける。
なにかあるの〜?と窓際へ近づく。
その後ろをミナトさんがススッと追いかけ、その景色に目を奪われている。
「……綺麗」
アカネの呟いた声が、吸い込まれていくような気がした。
それほど透き通った青が地平線まで覆っており、雲が海に浮かんで見えるほど青い空と続いている。
「今から皆さんで行くのでしょ?」
ミナトさんの声に、もちろん!と勢いよく返事したアカネは荷物を漁り、じゃーん!と声まで発して取り出した。
「着替えてくよ!」
え?俺も?と言う前に、アカネはほら!と俺の前に水着を突き出していた。
あら、楽しみですね、うふふと微笑むミナトさん。
そう見られていると恥ずかしい……。
ジーッと俺を見つめるアカネ。
思わず右上に目線を逸らしてからふっと戻す。
まだこちらをジーッと見つめている。
期待、期待で溢れている……。
「……ん、ありがと」
観念して水着を受け取ると、アカネはよし!と満足そうだ。
まあ3人で遊ぼうって言ったのは俺だしな、自業自得か。
……ん?
何やらこちらをずっと眺めている2人。
「なんだよ」
「いやぁ、早く着替えないかなーって」
「うふふ、着替えるところ見ててあげます」
「見せもんじゃねぇっ!」
部屋の仕切りにあった襖をピシャッと閉める。
……ったく。
「……気遣えよ、ばか」
ってかアカネ、今更だが何で俺のサイズ知ってたんだ?
※
「わあ!素敵です!」
「ほらぁ!やっぱ似合うでしょ!ね!似合うでしょ!」
襖から出てきた俺を見てしばらく2人は盛り上がっている。
恥ずかしいっ!恥ずかしいからやめろ!
「たまにはアキラだってかわいーくおしゃれしないと、ね!」
アカネは自慢げに腕を組み、人差し指を振っている。
これじゃ水着ファッションショーで陽が落ちてしまう。
「俺はもういいから、準備終わったなら行くぞ」
えー、私の水着見て何か感想はー?アキラさん!私はどうですか?と2人に引っ付いて回られ鬱陶しい……。
あらあら、気をつけてねー、とパラソルやらシートやらを貸してくれるために顔を出したお婆さんが、口に手を当て微笑んでいる。
「はいはい、2人とも可愛いよー」
と、このむず痒くも気恥ずかしい状況を何とかしたくて言葉を出すと
「……最低ね」
「……最低です」
と、冷めた声。
なんなんだよ……と、俺を挟んではしゃぐ2人の相手をしながら宿を出て裏に周り小道を進んでいくと
「……綺麗」
「ああ……」
「なんて美しいんでしょう」
白い砂浜、押し寄せる静かで穏やかな波音、照りつける陽に反射して光る水面、白兎が跳ねているかのような潮。
その光景に、しばらく声を失う。
「ねえ、アキラ」
アカネがずぅっと先まで目線をやりながら声をかけてくる。
「来て良かったでしょ」
「ああ、ほんとに」
※
俺はシートを砂浜に敷き、パラソルを立て、のんびりとはしゃぎ回る2人を眺めていた。
ミナトさんは抱いていた印象とは違うが明るいしいい子だ、ちょっと毒っ気は感じるが……。
それに、アカネ。
シェルターにいたとはいえあの学校事変でショックを受けていないか心配だったが、大丈夫そうだ。
バサバサっと飛び立つ鳥の羽音、その羽音だけが時間が動いているのを知らせてくれる。
今しかない、ゆっくりと流れる時間を過ごしているとまるであの日がなかったかのように思えてきた。
そんなわけは、ないんだがな。
「アーキーラー!おいでよー!」
「アキラさーん!冷たくて気持ちいいですよー!」
俺のことを呼びながらも水遊びに夢中な2人。
まったく、もう高校2年生だぞ。
仕方がない、重い腰をよっと浮かべた。
ーーその時。
小道の草むらからガサッと物音が聞こえた。
ばっと振り向くと
「あらぁ、奇遇ね」
心臓の音が一瞬、止まったような気がした。
そして、その声の主が誰なのかを認識した瞬間、鼓動がテンポを早める。
そこにいたのは、奴、だった。
※
「……なんでここにいる」
警報もない、出動要請もない、何なんだこいつは。
「ま、いいじゃない、知ったとして今のあなたには何もできない、でしょ?」
妖艶な笑みを浮かべている。
「似合ってるじゃない水着、可愛いわよ。あなたなら……そうね、同衾もいいかもね」
相変わらずの甘い声色だ。
だが、口角は上がっているが目は笑っていない。
「冗談でも笑えねえよ、その口動かねえようにしてやろうか」
「あらあら、冗談よ。言ったわよね?私、女の子には興味ないの。でも本当に綺麗な顔してるから……」
俺を挑発するように自分の足を撫で上げ、くすっと笑みを浮かべている。
「壊したくなっちゃうわ、ね」
くそっ!何だってこんな時に!
携行銃をかま……しまった!
完全に油断していた。
部屋まで戻っている余裕はない。
「あら?大丈夫よ、別にあなた達のデートを邪魔するほど無粋じゃないわ」
「目的は何だ」
「そう、ね。ちょっと面白くしようと思って」
何を言って何を考えている、こいつ。
思考に囚われているといつの間にか目の前に来ていた奴は俺の頭に手を翳してーー。
「面白かった!」
「次話以降も読みたい!」
「今後どうなっていくの?」
と思ったら
下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援をお願いいたします。
面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!
⭐︎1〜5の中で皆様の評価をいただけたらとてもありがたいです!
ブックマークもいただけると本当にうれしいです!
何卒よろしくお願いいたします!




