第五話
通信機器の画面に映ったのは、逃げ惑う人々だった。緊急事態を知らせるアナウンスが街中に響いている。私は通信機器の向こうの様子に、ごくりと唾を飲み込んだ。
「未確認巨大生物が近づいています。ただちに避難してください」
未確認巨大生物!? と私は戸惑って、画面を食い入るように見つめた。
古い特撮番組のようなおそろいのヘルメットをかぶった人たちが何人か、避難を誘導している。
「ちぇー! 新年早々かよー! お構いなしだな!」
「まあまあ、それが防衛隊の仕事ですから」
ぼやく隊員を、メガネをかけた生真面目そうな隊員がなだめている。
避難する人の波から押し出された女性が、地面に倒れ込んだ。生真面目そうな隊員が助け起こして声をかける。
「大丈夫ですか? ケガはありませんか?」
「ありがとうございます。大丈夫です……」
女性は震えている。突然未確認巨大生物が現れて避難することになったら、そりゃあ怖いだろう。画面の向こう側を気の毒に思っていると、隊員のトランシーバーがザザっと鳴った。
「巨大生物を肉眼で捕捉! 蝶のような形をしています!」
「こっちからも見えた! そいつはどんな攻撃をしてくるんだ!」
「わかりません! わかりませんが……蝶なので、攻撃手段を特に持っていないかもしれません! 現在鋭意調査中です」
あまりにも要領を得ないアナウンスに、これじゃあ不安になるだろうなと私はハラハラする。
防衛隊の頭上で蝶がひらりと舞うと、翅から金色の鱗粉がふわふわと落ちてきた。
「これ、浴びても大丈夫なやつか!?」
「わからん! まだ吸うな!」
生真面目そうな隊員が、女性にハンカチを差し出す。女性は慌ててハンカチを口元に当てると、ぎゅっと目をつぶった。
「大丈夫です。僕ら防衛隊がついてますからね」
「ありがとうございます……」
女性を支える隊員がヘルメットの前面のガラスを出していると、トランシーバーが再び音を立てた。
「調査結果出ました! 巨大生物のこれまでの経路を確認。進行上に特に異変なし。人体、生物、建物ともに問題なさそうです!」
「了解! 避難誘導に専念する!」
防衛隊は慌ただしく駆け回っているが、それならただの巨大な蝶なんじゃないかと私は困惑した。
人々の頭上をひらりと飛んで、蝶は来た方角へと戻っていく。
輝く金色の鱗粉だけが、街に降り注いでいた。
「帰っていくぞ……。何しにきたんだアイツ」
「でもなんだか、金色の粉が降り注いで、おめでたい感じがしますね」
助けられた女性がハンカチで口元を覆いながらふふっと笑ったところで、映像が途絶えた。
私は呆然としていた。未確認巨大生物の来襲。こんなことが本当に起きたんだろうか。撮影か何かではなく?
誰かの記憶のはずなのに、本当にこんなことがあるんだろうかと、私はただただ、眉を下げた。
頭上にはオーロラが出ている。通信機器は磁気嵐の影響でノイズが多い。
現実的でないという点においては、私が置かれている今の状況も、大差なさそうだった。




