第三話
広々としたホールの中央には柱がない。着飾った人々が円を描くようにして踊っている。
高い天井は斜めに入った独特の筋交で支えられている。リブ・ヴォールトって言うんだっけ、と私は西洋風の見事な建物を、通信画面ごしにながめた。
楽団の演奏していたワルツが終わると、踊っていた人々は優雅にお辞儀をして、ウェイターからグラスを受け取った。
楽団の中にいた一人の女性が、膝にフルートを置いて、指先にしきりに息を吹きかけている。「寒いの?」と隣に座っていた男性が尋ねた。
「そうですね。指先がかじかむといけないので」
「魔法で温風が出ているとはいえ、これだけ広い部屋だと寒いよなぁ」
魔法! 今、魔法と言っただろうか。
私は画面を食い入るように見つめた。この記憶の持ち主は、魔法のある世界に生きている。
「……失敗したらどうしよう」
女性は口元を指で覆って、はあっと息を吹きかけた。
「みんなご機嫌に酔っ払ってるし、花火もあがるから、多少失敗してもわからんよ」
「気分的な問題ですよ! 新年の演奏から失敗するなんて、縁起が悪いじゃないですか!」
楽団の指揮者が人差し指を唇にあてて、そっと二人に視線を送る。大きな声を出しすぎたのだろう。小さく会釈した女性をよそに、男性はクラリネットを構えた。
「まあ、失敗したらフォローするって」
フルートの女性が動きを一瞬止めて、クラリネットの男性に見入る。ふっと微笑んでから、すぐに背筋を伸ばしてフルートを構えた。
ワルツを踊る人々がホールで待ち構えている。
指揮者はその様子を確認してから、指揮棒を振った。
軽快にはじまった演奏に合わせて、人々がなめらかにワルツを踊り出す。
通信画面はそこでまたノイズが入ってしまって、見られなくなった。
いったい誰の記憶なんだろう。
さっきは宇宙で、今度は魔法のある世界だから、きっと一人の記憶ではない。さまざまな人の記憶が混ざっているんだろう。
時代も状況もバラバラで、万華鏡のように景色が目まぐるしく変わっていく。共通しているのは、新年を迎えたということだろうか。
私は映像の中で女性がしていたように口元を両手で覆って、はあっと息を吹きかけた。白い息が、ふわりと流れていく。
これまでの帯域の微調整で行きすぎたかもしれない。通信機器のしぼりを少し元に戻す。
ザザザという音のあとに、少女のはしゃぐ声が聞こえてきた。




