第一話
「A HAPPY NEW YEAR!」
通信装置から、誰かが新年を祝う言葉が聞こえてきた。冷たい空気の中でぶるりと身震いして、私は空を見上げる。
暗い空には緑色のオーロラが浮かび上がっている。ゆっくりと動くオーロラは、風に揺らめくカーテンのようにも見えた。
なぜここにいるのか、ちっとも思い出せなかった。それでも自分の記憶を探さなくてはいけないということだけは、覚えていた。
「もしもし? もしもーし」
手元の通信装置から、ジジジと音がする。磁気嵐で通信が混線しているようだ。帯域を少しだけ変更すると、ノイズの向こうから声が聞こえてきた。私はそっと耳を澄まして、画面に見入った。
「あけましておめでとうございます」
「あけおめー。今年もよろしく」
若い男女が画面に映った。
初詣に訪れる人々で、神社はごった返している。参道には甘酒の湯気が漂っていて、ほんのりと甘い匂いが漂ってくるような気がした。
絵馬や破魔矢、お守り、おみくじ……授与を求める人々が社務所の前に行列を作っている。
参道の両脇には露店がいくつも並んでおり、とにかく人が多い。
今の私には、ちょっと懐かしい光景だ。でも私の記憶ではなさそうだった。
「あれ?」
画面の中の男女は、いつの間にかはぐれてしまったようだ。
境内を少し探し歩いて、男性が女性を見つける。
「こっち!」
「……ごめん、寒くて。あったまる飲み物ないかなって探してたら、迷子になっちゃった」
男性は甘酒の紙コップをくわえると、自分が巻いていたマフラーをはずし、女性に巻いた。
「ありがとう。あったかい」
「なんかあったかいもの食べる? 豚汁とか」
「そうだね」
一歩前を歩いて人混みをかきわけていた男性が、そっと女性に手を伸ばす。
「……また迷子になるかもしんないから」
男性の言葉に女性は少し照れてうつむくと、おずおずと指を絡ませた。
初々しいなぁと男女を見守っていた私の目の前で、画面にノイズが走って映像が途切れた。
磁気嵐の影響だろうか。また混線している。「いいとこなのに!」とふくれながら、通信機器をぺちぺちと軽く叩いた。
私の口元から、白い息が流れていく。さっき見た映像で、自分がマフラーを巻いていたことを思い出して、そっと口元まで持ち上げた。
さっき見たものは、きっと誰かの記憶なのだろう。誰かの記憶が混線して、入り込んでいる。
私は再び帯域を微調整して、自分の記憶を探した。
ざらざらとしたノイズの中から、また別の声が聞こえてきた。




