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ある魔術師の戦中記録  作者: 月乃宮 夜見


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1 会議

本編『薬術の魔女の宮廷医生活』(https://ncode.syosetu.com/n2390jk/)(推理モノ、スピンオフ(?))


本編2『薬術の魔女の結婚事情』(https://ncode.syosetu.com/n0055he/)(恋愛モノ、馴れ初めの話)


今回は年齢が近い宮廷医生活の方を上に置いています。

 悪月(5月)の某日。


 フォラクスの住む国、『金の国(アウルム)』が隣国のX国から戦争を仕掛けられた。

 それは唐突な話で、魔鉱山都市グレジスがX国からの奇襲で陥落した知らせから始まる。


 『神が引いた』とされる国境に囲われ数多に対する中立を約束したこの国の創国以来、初めての領土侵攻だった。


緊急事態ということで、国王議会は即座に「軍事動員令」を発令。軍部の人事の者と宮廷魔術師達による会議が始まった。


「今回は事態が大きいため、平民の宮廷魔術師を戦線に送ることになった。許可を伺う、と言うのは形だけで決定事項だ。悪く思うなよ、()()()()()()()()()での決定だ」


 軍部で人事を司るアイザック・ユスアウィスが、淡々と通告した。アイザックは通鳥(アウィス)当主の伴侶でもある。


 会議に呼び出されたのは、宮廷魔術師の総括である人馬宮室長ヘリオス・ウルラス、人馬宮室員ハイドラ・ヒュドゥーサ、磨羯宮室長補佐ソミウム・ポニム、宝瓶宮室長エレミータ・ゲニウス・ヒュドロコーオス、金牛宮室員フルゴル・タゲテス、巨蟹宮室長アルタルカル・キーノス、乙女宮室長セフォーナ・ヴィンデミアトリックス・スース、そして蘇蛇宮室長フォラクス・アーウェルサ・ラムフェレスだった。他、室長や室長補佐が出ていない宮の室員が各宮1名ずつ呼び出されている。


 人馬宮室長のヘリオス以外は皆、平民出身の宮廷魔術師だ。


「『古き貴族』当主の方々()()()()での決定、ですか」


ヘリオスはやや呆れた様子を見せる。


「『金の国』を守護するはずの祈羊(アグヌス)の防衛が破られ、その上1/3近くも領土を蹂躙されている。この結果だけを見れば、宮廷魔術師達の動員は仕方のない話にも見えますが」


「俺に聞かれても、祈羊(向こう)の意図は分からない。もっと戦況が酷くなれば、貴族の宮廷魔術師達の動員も視野に入れている。ともかく平民の宮廷魔術師達は、早急に戦線に向かう準備を始めてくれ」


極めて無感情に、アイザックは答えた。宮廷魔術師達に余計な情報(こと)を言わないよう、気を付けているのだろう。


()()()()()()()()()()。それは約束できる。何せ、大公爵全員一致での決定だからな」


アイザックがそう告げると


「要らぬ争いのせいで『金の国』の魔術研究が遅れることは、大きな損失だと思いますが」


と、宝瓶宮室長のエレミータにちくりと刺される。


「俺じゃなく、吹っかけた側に言ってくれ」


アイザックはやや面倒そうに息を吐いた。


「戦争なんて、野蛮です。巻き込まれた動物達がかわいそうです」


磨羯宮室長補佐のソミウムは、心底嫌そうに顔をしかめる。


「そうですよ、なぜ戦わなければならないんですか。外交で何とかするのが、政治貴族の役割じゃないですか」


同調するように乙女宮室長のセフォーナが、やや表情を歪ませる。


「政治貴族によると、向こう(X国)が全く話を聞かないらしい。『神の土地』が欲しいんだと」


「周囲の国の仲裁すら拒否している」そう、アイザックは答えた。


「できれば戦線に行きたくないが……褒賞は出るのか?」


 巨蟹宮室長のアルタルカルは、面倒そうにアイザックに問う。


「無論、出る。特に研究費の上乗せという部分にだがな。材料は各々の室で求める物が異なるだろうから、金で出る。大公爵達それぞれが出すから、金額は期待して良い。全ての室に平等に同量ずつだ」


「ひゅーう、そう来なくちゃな。だが、それだと人数が少ない室の方が有利じゃないか?」


とアルタルカルは蘇蛇宮室長のフォラクスに視線を向けた。蘇蛇宮は他の室と違い、片手で数えるくらいしか室員が居ないのだ。


「……決定事項だ。文句があるなら、可決した王弟殿下に訴えてくれ」


アイザックの返答に、興味を失ったようでアルタルカルは頬杖を突く。


「やや的外れな問いなのは承知の上ですが、良いですか」


金牛宮室員のフルゴルが挙手する。


「ああ、別に構わないが」


アイザックに許可され、フルゴルは口を開いた。


「室長殿や室長補佐殿はともかく、なぜただの室員である私やハイドラ殿が呼ばれているんですか? 他の室員達もです」


「そりゃあ、平民の第三席だからだよ。室長も室長補佐も貴族なら、平民で実力のある室員()を呼ぶしかないからな」


「そう言うものですか」


「ここにいる、室員達はそう言うつもりで呼び出している。これからアンタ達には、平民の宮廷魔術師達の指示役をしてもらわないとならない。ちゃんと話を聞いて欲しい」


「平民の第三席ぃ? なんでそれを先に言わないのよ。それに他の宮廷魔術師達の指示役だなんて、バカじゃないの。指導者になったことのない平民に、ましてや戦争時の指示なんて分かるわけないじゃないの」


人馬宮室員のハイドラが声を上げる。


「……政治貴族達は『尊い血』である貴族はまだ温存しておく意向だ。指示については魔装兵、および補給兵のマニュアルがある。それを基準に、対応してくれ。補給兵達も手伝ってくれるだろう」


アイザックはハイドラと、他の室員達に視線を配った。室員達は神妙な顔をしている。


「アンタは何か言うことはあるか、蘇蛇宮室長殿」


 ずっと黙っていたフォラクスに、アイザックが声をかける。


「いいえ。(おおむ)ねウルスス殿と同意見で御座います」


「そうかよ」


淡々としたフォラクスの態度に何も言わず、アイザックは視線をずらした。

 そうして会議が終わる。

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