第31話 フィレンツェ初飛行
フィレンツェ編も、いよいよ翼が動き始めました。
リクとミナの “ポンコツ × 天才工房” の組み合わせは、
いつも少し笑えて、少し焦げた香りが混ざります。
今回は、ダ・ヴィンチ工房の熱気と風に巻き込まれながら、
二人が「夢の設計図」に触れていく物語です。
どうぞ、ゆっくりお楽しみください。
フィレンツェ郊外の丘。
薄い霧が朝日に溶け、街の尖塔がゆっくりと浮かび上がる。
リクは、木製の巨大な翼を前にため息をついた。
「……こういうの、図面で見るより迫力あるな。」
『構造解析完了。安定率19%です。』
「……低いな。」
『低いです。』
リクは思わず笑った。
いつものことだ。初回のテストは、たいていこんなもの。
「まあ、飛ばすのは今日じゃない。試運転だ。」
『あなたの“試運転”は、過去7回中5回が本番化しています。』
「縁起でもない統計出すなよ……。」
木の影から、レオナルドが現れた。
手にはスケッチブック、顔は朝陽みたいに明るい。
「友よ、この翼は“空の記憶”を掴むためのものだ。
試す価値はある。」
リクは笑って帽子を押さえた。
「整備士としては全力でお手伝いします。
飛ばすかどうかは……風と相談で。」
「賢い判断だな。」
レオナルドは楽しげに頷いた。
ミナが翼に近づき、内部の布張りと骨組みをスキャンする。
『素材の経年劣化、想定内。
しかし補強部にあなたの修理跡が残っています。』
「ああ……その……勢い余って釘を2本ぐらい……。」
『“ぐらい”という単位、観測不能です。』
「細かいことはいいの。味だよ味。」
レオナルドが笑う。
「味……面白いな。
機械に個性が宿るということか?」
「はい。俺の師匠がよく言ってました。
“完成度より、魂の入り方が大事”って。」
『あなたの魂が入ると、たいてい焦げます。』
「それ褒めてないだろ絶対。」
丘の上に風が通り、翼がかすかに鳴った。
草の香りと朝の湿気が混じり合う。
レオナルドが静かに言う。
「わたしは……空を飛びたい。
だが、どこかで恐れてもいる。
“もし落ちたらどうなるのか”とな。」
リクはしばらく黙って、翼を撫でた。
「落ちるかもしれない。
でも、“飛ぼうとした事実”は残ります。
俺たちの時代では、
そういう挑戦の記録が未来を作ったんです。」
ミナがそっと補足する。
『創造とは、観測の別名です。
あなたの夢は、未来でも観測され続けています。』
レオナルドは目を見開いた。
「未来……か。
ならば、わたしも記録を残そう。
空の観測者として。」
リクは軽く手を叩いた。
「よし、では試運転の準備をしますか。」
『手順を開始します。
翼角度調整、風向き解析――』
そこで突如、翼がバサッと開いた。
「うお!? まだ触ってねえぞ!」
『自動展開が誤作動しました。
あなたの工具が引っかかっています。』
「え、俺のせい!?」
『はい。責任比率87%です。』
レオナルドが大笑いした。
「いいぞいいぞ! 生命を感じるぞ、この翼は!」
「いや生命感じんといてください!?」
丘の風が強まり、翼はさらに大きく揺れた。
『リク、風速上昇。推力テストにちょうど良い状態です。』
「……え、まさか今日飛ぶ流れ?」
『可能性49%。』
「絶妙に怖い数字だな!」
レオナルドが真剣な表情で言う。
「友よ。もし今日飛ばずとも、構わない。
ただ……この翼に触れてくれて感謝している。」
リクは照れたように笑った。
「こちらこそ。夢の続きに混ぜてもらえるなんて光栄です。」
ミナが静かに結論を出す。
『“飛行の祈り”が観測されました。
旅の条件が整いつつあります。』
リクは息をのんだ。
「……ってことは、そろそろ“次”が近いな。」
『はい。だが、飛行装置の記録はまだ未完です。
もう少しだけ、この時代にいる必要があります。』
リクは空を見上げ、風に帽子を押さえた。
「よし。じゃあ次は本番前の調整だな。」
フィレンツェの風が、三人の間をやわらかく吹き抜けた。
――午後三時、観測は続く。
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観測記録 No.31
観測者:リクとミナ
転移先:15世紀末・フィレンツェ郊外
観測対象:レオナルドの飛行装置(試運転)
状態:観測継続・風の祈り検出
読んでくださり、ありがとうございます。
リクとミナの旅は、まだまだフィレンツェで続きます。
翼は揺れて、夢は香って、焦げ率は……上昇傾向です。
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とても励みになります。
次回、いよいよ「飛ぶかもしれない」予感。
ぜひまたお付き合いください。




